生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-5
「あ、あのあの!僕、ちょっと気付いちゃったんですけど!!」
僕は逸る気持ちを抑えることなく、興奮気味に大声を出した。
キャロルの行き場所について心当たりが出来た。
「何だ何だ優!気付いちゃったか?分かっちゃったのか?」
宝さんも目を輝かせて、嬉しそうに僕の肩を叩いた。
自分でもアホくさい理由だと思うけど、妙な確信があった。
「キャロルだって、この天気、暑いですよね!」
「そう…ね」
「なら本能で涼しい所に行くと思いません!?」
僕の頭に思い浮かんだ光景は、今日の午前中の凉を求めて床に寝転がるオッさん。
あれは本能で一番涼しい場所を探してたんだ!
「おお、行くだろうな」
「…そうね、日陰とかに行くんじゃないかな。で、足元は…」
「湿った土…とかならヒンヤリしてて犬には気持ちいいと思いません?」
「ということは、その条件に合う場所を探せばいいってことですか?」
「はい!」
この変な自信はどこから沸いてくるんだろう。
ありがとうオッさん。さっきまですごく恨んでたけど、今は感謝の念でいっぱいです!
日陰で土むき出しのところっていったら…森?林?
この辺りにはどっちも無いし…。
「空き地…」
「よし、空き地を探すぞ!」
すぐに空き地は見付かった。僕らが探した範囲には無かったので少し足を伸ばしたら、家と家の間に売り地の看板が立った空き地を発見した。
僕らの腰ほどまでの高さの草がびっしり伸びてて、パッと見ただけじゃ分からない。
「キャロルー」
僕がそっと声をかけると、家の陰になった部分の草がガサッと揺れた。
早羽さんがそこ目掛けて駆けていく。剥き出しの素足が草で切れても構わないとでも言うように、何の迷いもなかった。
早羽さんがしゃがむと草で姿が見えなくなった。そして次に姿を現した時には、その腕に一匹の犬が抱かれていた。
「キャロル?」
下村さんが呟く。
毛色は白と茶。気品ある姿。写真で見た通りのパピヨン。
「キャロルだ!いた!やった!」
僕は無意識にガッツポーズをしていた。宝さんと下村さんが手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねている。
早羽さんがキャロルを抱いて戻ってきた。
「あ…可愛い…」
キャロルは尻尾を振って、下村さんの伸ばした手を舐めた。
実際に近くで見るとシャープな顔とは反対に、体はふわふわモコモコでずっしりしているようだった。
「良かったですね、下村先輩!」
「…うん!…うん!」
下村さんの瞳からポロリと涙が一粒溢れた。
ああ、頑張って良かったぁ〜。
汗だくでフライドチキンを食べた甲斐があるってもんだ。
キャロルがいまだにペロペロと、撫でる下村さんの手舐めている。
「お腹空いてるのかな…骨、食べる?」
出た!骨!
下村さんがキャロルに骨を差し出したその時だった。
すぅっと早羽さんが下村さんからキャロルを遠ざけた。
「早羽さん。可愛いのは解りますが、そろそろ下村先輩に返してはいかがですか?」
早羽さんの行動を不思議に思ったのか、宝さんがそう言った。
すると、早羽さんはにっこりと笑って
「そうね。可愛くてずっと抱っこしてたいけど返さなきゃ。
ねぇ照美ちゃん?キャロルはいつも、飛んだり跳ねたりして遊ぶの?こんなにしっかりした体格だもの。私も最後に一回思いっきり遊んでもいい?」
と言った。
すると下村さんは少しキョトンとした表情をしていたが、すぐにニッコリと笑顔になった。
「…え、あ、はい。元気に駆け回りますよ。結構重たいですよね、ずっと抱っこさせてしまってごめんなさい」
「そっか」
早羽さんが俯いた。キャロルを抱く腕に更に力を込めたような気がした。
「それなら、キャロルは照美ちゃんに返すことは出来ない」
耳を疑うセリフとともに、早羽さんが顔を上げた。その顔にいつもの笑顔は無く、険しい表情で真っ直ぐ下村さんを見据えていた。