生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-4
しばらく歩くと、住宅街で下村さんが立ち止まって「この辺りです」と言った。
近くの電柱に住所が書いてあって、確かにビラに書かれた住所と一致した。
「この辺り?」
早羽さんが首を傾げる。
「えと…はい。私の家はここからすぐで、あの……家まで行かなきゃ…ダメですか…」
後半は相当消え入りそうで、何と言っているのか聞き取るのがやっとだった。
そんなに僕らに家を教えたくないのかな?
「…まぁ、いいわ、この辺りで」
少し沈黙してから早羽さんが答えた。
「ねぇ、照美ちゃん。キャロルはいついなくなったんだっけ?」
「あ…昨日です。たぶん」
自信なさげに肩をすくめながら、小さい声で下村さんは早羽さんにそう告げた。
「たぶん?自分の家の犬なのに?」
早羽さんが顔をしかめながら首を傾げる。確かに、何で昨日自分の家で起きたことなのに不安げなんだろう。
「あっあの!私丸1日家に居なくて…その間に…居なくなったみたいで…!」
そんな雰囲気を感じたのか、下村さんは焦った様子で身ぶり手振りを交えながら弁解した。
へー、なるほど。夏休みだし、どこかに遊びに行ってたのかもしれないな。
「そうだったの…。昨日ならそんなに遠くには行ってないかも。ワンちゃんは帰省本能があるし案外すぐ見つかるかもしれないね」
早羽さんがにっこりと微笑む。
何て先輩らしい先輩なんだ。早羽さんのいなかった数ヶ月、僕はよくやってこれたなと思う。
「ちょうど十字路ね。四方に別れて名前を呼びながら探していこう。30分後、またここに集合すること」
「はい!」
僕達は勢い良く返事をすると、それぞれに別れた。直前に下村さんに目をやると、ギュッと手を結んでぽそりと何か呟いた。唇の動きが「お願い、見つかって」と言っていた。
30分後。
汗だくで僕は元の交差点に戻った。既に全員揃っていて、僕は宝さんに「遅い!」と叱られた。
「どうでしたか?」
「ダメね、もっと遠くなのかも」
「まじっすか…」
このクソ暑い中もっと遠くまで探しに行くのか。
照り付ける日差しはガンガン体力を奪っていくっていうのに、この隠れるところもないような住宅街で見つかる気配が全く無い。
僕の心が折れかけていると、バシンと大きな音がして背中に痛みが走った。
「痛っ!宝さん!?」
どうやら宝さんに背中を思いっきり叩かれたらしい。
宝さんの方を向くと、そこにはこの世のものとは思えないほどおっかない顔をした宝さんがいて、僕は「ひっ…」と後退りした。
「お前がそんな顔するんじゃない。下村先輩の気持ちも考えろ。大切な家族がいなくなったんだ。寿絵瑠たちがやらないで誰がやる!」
そうだ。そうだよね。僕は動物を飼っていないから分からないけど、飼い主にしてみたらペットも家族と同じ。
暑いだの疲れただの言っている場合じゃない。
「ごめん。僕、頑張るよ」
僕がそういうと、宝さんがニッと白い歯を見せた。
「私なんかのために…ありがとうございます」
下村さんが頬を赤くしてペコッと頭を下げた。
「何か私も元気出てきた。よし、じゃあ次!照美ちゃん、キャロルが好きな物って何?好物で誘導しよう!」
下村さんは「好きな物…ですか…」と少し考えて「あっ」と声を上げた。
そして、突然走りだし近くのコンビニに入って行ったかと、小さい袋を持って出てきた。 何か買ってきたようだ。
「あのっ…!これっ…!」
下村さんは一人一人にその袋を渡していく。
温かい。その袋を開けると
「フライドチキン?」
炎天下には厳しい、アツアツのフライドチキンが顔を出した。
「犬と言えば、骨です!」
下村さんが真面目な顔で、フライドチキンを頬張る。回りの肉を食べて、骨だけにするつもりらしい。
本人か至って本気だからか、尚更その姿が面白くて僕は吹き出してしまった。
「えっ…私…あっ、あの…」
僕につられて、宝さんと早羽さんも笑う。
下村さんがまた、かぁっと顔を赤くした。自分が突拍子も無い行動をとっていたことに今気付いたようだ。
「いえ、いいんです。すいません。僕も食べます!
」
「寿絵瑠も!」
「ふふっ」
そして四人でじりじり照り付ける日差しの中、出来立てアツアツのフライドチキンにかぶり付くのだった。
「全っ然ダメだ…」
僕はフライドチキンの骨を手に持ってキャロルの名前を呼ぶ。が、全く音沙汰なし。
好物作戦も失敗のようだ。あれから一時間が経とうとしているので、僕はまた集合場所の交差点に戻った。
浮かない顔の三人がいたので、結果は大体予想が付く。
「僕はダメでした。早羽さんは?」
「こっちもダメ、猫ちゃんなら釣れたけど。照美ちゃんどう?」
「ダメダメでした…。宝さんはどうでした?」
「寿絵瑠もダメだった。力になれずすみません…」
しゅんとショボくれた宝さん。額に汗の玉が出来ている。さすがに炎天下じゃ心頭滅却は無理か。
「キャロルちゃん…どこにいるの?」
下村さんが小さな声で呟いた。
その声をかきけすようなセミの声。何の案も出ないまま立ち尽くす四人。
「あーあ」と、早羽さんが深い溜め息を吐いた。
「乙がいればなぁ」
「え、オッさんですか?」
「そう。こういう依頼の時って大抵乙があっという間に見つけちゃうのよね」
「同じ獣同士、動物の気持ちが分かるのでしょう」
宝さんがそう言うと早羽さんが「そうかも」と笑った。
「乙は動物に近いからね」
動物に近いオッさん。ふっ、確かに。猿っぽいし、野性児だし、本能だけで生きてそう。
─本能?
ああぁ!!