生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-3
「小鞠ちゃん!大変だ!」
「へ?」
ドドドッと雪崩のように男子生徒が10人程肩で息をしながら入ってきた。
この狭い室内にむさ苦しいのが10人…。ただでさえ暑いのに、ビジュアル面も功を然して、摂氏温度が上がった気がする。
「大変なんだ…!山田が…!」
鬼気迫る勢いの男子たち。その尋常じゃない様子に僕もゴクリと息を飲む。
むさ苦しいとか思っていたけど、大勢で押し寄せるなんて、もしかしたら緊急事態なのかもしれない。
「山田が…!」
「山田くんがどうかしたの?」
小鞠さんも心配そうに訪ねる。僕も宝さん、下村さんと顔を見合せ、その山田という人に何かあったのかと真剣な面持ちで彼らの次の言葉を待った。
「山田が…フラれた!!!!」
……知るか!!激しくどうでもいい!!
「フラっ…」
あまりにも予想だにしない答えに宝さんが固まる。
「へーそう」
ポカーンとした表情のまま小鞠さんがさらりと返した。
「そうなんだ!山田がフラれてハートブレイクしてるんだ!」
知ったこっちゃないよ、山田の恋路なんて!
「ハートブレイクで燃え尽き、倒れてしまった!」
山田のメンタル弱過ぎるだろ!そんなんでよく挑んだもんだ。フラれた時のことぐらいシミュレーションしろ!
「俺たちの言葉にはもう、反応すらしねぇんだ!」
そりゃそうだ!むさ苦しい男どもじゃ、何人に慰められても全く立ち直れないからね!
…はっ、だから!?
「だから小鞠ちゃん!小鞠ちゃんがあいつを救ってくれ!」
やっぱりか!
「あれ?」
不意に小鞠さんの体が宙に浮いた。
「え、ちょ、小鞠さん!?」
なんと、小鞠さんは男どもに胴上げの要領で担ぎ上げられてしまった。
膝を抱え体を小さくした小鞠さんは、男たちの頭上で器用に横にされ、あれよあれよという間に連れ去られていく。
おい嘘だろ?その為のあの人数だったのか?
御輿じゃあるまいし、失恋パワー恐ろしや…。
「優ちゃんに寿絵瑠ちゃーん!後は任せたよぉ!」
ワッショイワッショイという掛け声に混じって、そんな小鞠さんの声が聞こえた。やがて足音は小さくなり、しまいにはしーんとしたいつも通りの旧校舎に戻った。
なんだ。今の嵐は何だったんだ。
ていうか、何でよりによって今なんだ…。夏休み中の依頼が今この瞬間に全部重なったのか?
「あの…忙しそう…なんですね」
喧騒がおさまると、呆気に取られていた下村さんが不安げにそう言ってきた。
「あ、はい…ははは」
僕は苦笑いしか出来ない。
たかだか数分で半分になってしまった人数に、僕は落胆した。
犬探しだぞ、犬探し。この炎天下の中、たった三人で…!
うぅ、地獄だ。
オッさん…これならすぐに見つかるなと笑った貴方が憎いです。
そしてまた、キュッキュッと靴と廊下が擦れ合う音がした。
人だ、人がこの教室に近付いている。
今度は何だ!宝さんか!宝さんを奪っていくのか!
「今日の補修終わりー!ん?乙たちはいないの?」
……早羽さーん!!!!
遅れて現れた女神の存在に僕は涙を流して喜んだ。
僕は固まっていた宝さんを揺り起こして、早羽さんに現状を説明した。
「え、犬探し?私ワンちゃん大好き!」
早羽さんはそう言って、すぐに乗り気になってくれた。
下村さんも久し振りに見たまともな人に安心したのか、当初あった緊張も解れているように見える。
とりあえず外に出ようかと、四人で玄関まで来てみたものの
「さて、どうやって探しましょうか?」
宝さんが問う。
すると少し考えて早羽さんが
「照美ちゃんの家から逃げ出したのなら、照美ちゃんの家の周辺から探した方がいいかもね。そうやって少しずつ範囲を広げていくの」
と、100%同意出来る意見を述べた。
僕と宝さんがおお〜と感心していると
「今まで何回かあるの、猫とかウサギとか。それでこのやり方が一番手っ取り早かったの」
と言って、早羽さんはくすりと笑った。
さすが、生徒委員会副委員長!何て頼りがいがあるんだ。
「やはり副委員長の名は伊達ではありませんね!オッさんの委員長の肩書きを剥奪したいぐらいです!」
宝さんが感嘆の声をあげる。その気持ち、少し分かる。
「て訳で、照美ちゃんのお家教えて?」
早羽さんはそう言いながら下村さんに笑顔を向ける。
「え、あっあのっ!うち…ですか!?」
すると、下村さんは慌てた様子で顔を赤らめた。
「うん、私の話聞いてたよね?」
「あ、はい…そうですよね。すみません…こちらです」
自分の家教えるの恥ずかしいのかな?
初めて会った僕達に自宅を教えることに抵抗があるのか、下村さんは渋々と言った感じで僕らを案内してくれた。