生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-2
下村さんはその紙を机の上に広げた。
「む…犬?」
宝さんがぽつりと呟く。
「あ、はい。私の飼い犬なんです」
その紙には『迷い犬探してます』の文字。
なるほど、飼い犬の捜索かぁ。
紙はどうやら、犬を探すためのビラのようで他にも写真や特徴が乗っていた。
『名前・キャロル
犬種・パピヨン
普段は家の中で飼っているのですが、窓の隙間をこじ開けて逃げてしまったようです。
名前を呼ぶと誰にでも寄っていく程人懐っこいです。見つけたら下記まで連絡下さい。 松浦』
一番下には、住所と電話番号が記載されている。写真は男性とその犬が寄り添っている写真だ。この男の人は…下村さんのお兄さんかな?
でも連絡先の『松浦』って誰だ。
「可愛い〜!綺麗なワンちゃん!」
小鞠さんがキャーと黄色い声をあげたので、僕のその些細な疑問はきれいさっぱり忘れてしまった。
確かに、白と茶の毛色のパピヨンで、優しい黒い大きな目は賢そうな印象を与えた。
確かパピヨンて、このピンと立った耳からさらっと垂れた長い毛が蝶のようだから『パピヨン』って名前になったんだよな。
そう考えると、蝶の名を持つこの犬が綺麗なのは必然である気がしてきた。
「名前はキャロルっつーんだな。住所は…この辺か。まぁ、みんなで探しゃすぐ見つかるだろ!」
オッさんがニッと下村さんに笑いかける。すると、下村さんの顔がパァッと明るくなった。
「じ、じゃあ!一緒に…探してくれるんですか!?」
「ああ、ちょうど暇だったしな。今すぐ行くぞ!…あ、ちょっと待て」
勢いに乗ったオッさんを止めるかのようにコンコンと扉の方から音がした。
かと思うと間髪入れずバンッと扉が開いた。
「鯨岡!一人怪我した!今から練習試合あるからお前来い!」
開くと同時にサッカー部のキャプテンさんがそう言いながら、室内に入ってくる。
オッさんはよく運動部へ助っ人に行ってるから今回もその依頼なんだろう。でも、今回はちょっと間が悪くないすか。
「え、今から?」
オッさんが少し怪訝そうな顔をする。
「今からだよ!何聞いてたんだ!ほら、行くぞ」
が、しかしすぐに「まいっか」と呟くと、机からひらりと飛び降りた。
「うーん、まぁ一人ぐらいいなくても大丈夫だろ。じゃあお前ら頼むぞ!」
オッさんが急かされるようにしてキャプテンさんに連れていかれる。
すると、入れ違いで今度は新聞委員会の委員長さんが駆け込んで来た。
ずり落ちた眼鏡を直しながらキョロキョロと室内を見渡して、ある一点で視線は止まった。
突然騒がしくなり始めた気がして、段々思考が付いていけなくなってきた。
「あ、公彦いたいた!パソぶっ壊れた!明日締め切りなのに…。ちゃちゃっと直してくれよ」
「ああ、分かった」
そんな!
キミさんがすぐに立ち上がったかと思うと僕らに向き直って
「…新聞委員会のパソコンはしょっちゅうフリーズしてるんだ。いつもオレが直してるからすぐ戻れると思う」
と、小さな声で囁いた。
頼みますよキミさん!
そう言う間もなくオッさんに続き、キミさんも部屋を出ていってしまった。依頼が立て込んでるので一秒の時間も無駄にしたくはないのが伝わってきた。
いつも悪いな、という委員長さんの声が聞こえてくる。
「構わない。が、今日は少し忙しいんだ。さっさと終わらせるぞ」
「いやー、毎回悪いなぁ!何か煙り出てきさぁー、画面真っ暗なんだよ!お前ならデータ取り出せんだろ?」
「は?」
はっ!?煙!?こっちも「はっ!?」だよ!
もうダメだ。煙って何だ。フリーズどころの話ゃない。キミさん、もう戻ってこれないだろうな。
また一人人員が減った。
「キミちゃんも行っちゃったね〜。二人も減ったから少し時間はかるかもしれないけど早速行こっかぁ」
怒濤の来客ラッシュに臆することもなく小鞠さんが立ち上がる。さすが、一年間生徒会で揉まれてきただけのことはある。
僕が人知れず関心していたその時だった。
何人もの足音がバタバタと聞こえてきた。嫌な予感しかしない。