想-white&black-N-3
そんなことを考えてる自分が何て浅はかで愚かしいことだろうと頭の隅で思う。
ただ快楽に溺れて現実を忘れたいだけの卑怯な人間に成り下がっている。
叶わない想いだと言い訳しながらそれでもいいと、彼が身体だけでも求めてくれるならとそれにすがり付くのだ。
(でも……どうしようもないじゃない)
あまりにも住む世界の違う人が気まぐれでもこうして私を抱き締めてくれる。
未来を夢見る事ができないなら今この時だけでも刻み付けていたい。
あんなに嫌いだと思っていたのに。
冷たくて怖くて傲慢で、私を無理矢理奪って好き勝手にして。
だけどそんな中いつの間にか強く惹かれていたことに気付いて、それが辛くて逃げ出した時もあったけど結局はここにいる。
底知れない孤独から真っ先に手を差し伸べてくれたのは楓さんだった。
人の肌がこんなに熱いことを教えてくれたのも楓さんだった。
胸が痛くて切なくて、こんなに人を想うことができるんだと教えてくれたのも……。
いつか顔を会わせることすらできなくなるなら、今だけ……、今だけでもせめて……。
「入れるぞ」
その熱い囁きに身体がびくりと期待に震えた。
床の上に座る楓さんを跨ぐように向かい合わせに導かれる。
少しずつ腰を下ろしていくと熱い塊が私の中に入ってきた。
何度も何度も受け入れてきた私をおかしくさせる熱。
傷つけられたこともあったけど今はこの熱が愛しくて欲しいと身体も心も叫んでいる。
「あ……っ」
彼の首にしがみつくように抱きついていたから、思わず漏れた声が楓さんの耳元にかかる。
それがくすぐったかったのか、楓さんの身体が一瞬震えたような気がした。
「くそっ」
何と呟いたのか聞こえなかったが、その直後私の身体を激しく上下に揺さぶり始めた。
「あっ、そん……な、はげし……っ」
深く挿入されたまま動かされ、思わず甘い声をあげる。
楓さんの猛った熱の塊が思っていたより深く奥まで入ってきた。
「か、楓さん……っ、ふか、い……、あぁっ、ダメ……」
思わずそうこぼすと楓さんは動きをピタリと止めて唇の端を引き上げた。
「大丈夫だ。ほら、お前の思うように動けばいい。お前の感じるように、な」
そう言いながら楓さんの舌が乳首を舐めてきた。
たっぷりと濡れた舌先で円を描くようになぞった後、何度も弾いたりして刺激してくる。
「ひぁ……っ」
そうやってしばらく胸の尖りを濡らされているうち、腰に疼くような熱がこもっていくのを感じてきた。
堪らず下半身にきゅっと力を込めると中にある彼の昂りを締め付けてしまう結果になり、余計にその存在をはっきりと感じ取ってしまう。
楓さんは全く動かないまま私の葛藤を愉しげに見つめ続けていた。
「ん……、あ……っ」
羞恥に染まっていくのを自覚しながら少しだけ腰を動かしてみると、繋がった所から濡れた音と共に快感が腰から全身に走り抜けていく。
実を結ぶはずのない想いを隠すように私は与えられた一時の快楽に身を焦がす。
「気持ちいいか?」
低く痺れるような声に一瞬理性が引き戻されるも、すぐに淫らな本能が覆い尽くした。
頷くと頬に冷たいものが流れていくのを感じて、それが自分が流した涙だと気付く。
「泣くほどいいのか?」
それも間違いではないと思う。
激しすぎる快感に堪えきれず勝手に涙となって現れたのだろう。
だけど溢れだしたのはそれだけでもないような気がした。
絶対に言葉にできない、言葉にしてはいけないものが……。
「いい……っ、楓……さん、楓さんっ」
心の底からすがるように彼の名前を呼び続ける。
「楓さんっ……」
律動に揺られて滑り落ちた涙が顎先を伝って楓さんの胸元を濡らしていた。
「花音……っ」
名前を繰り返し口にしていると、楓さんは堪らなくなったように表情を歪めて私を強く抱き締めたまま床へ押し倒した。
冷たい感覚がしなかったのは彼が私の背中の間に腕を回したまま抱いていてくれたから。
そしてそのまま私の深い所を突き上げてくる。
身動きができないほど強く抱き込まれて、逃げ場のない身体はぶつけられる快感全てを受け止めざるをえなかった。
「あっ、あぁ……っ、楓……さ」
「く、そっ……、持ってかれる……っ」
一際深く突き上げたと同時に意識が一瞬飛ぶような感覚と共に、身体中が喜びに震える。
そして腹の奥を満たすように熱が流れ込んでいくのを感じていた。