プライスレス・プレゼント-3
「――あぁ、なるほど。それは至難の業だ」
公園のベンチに並んで腰かけ、サーフィが誕生日プレゼント選びに苦戦していることを聞くと、ヴェルナーはくっくと笑った。
「叔父上は、あまり物を持ちたがらない人だから」
「そうなのです……」
そもそもヘルマンは、あまり品物を持たない。
必要なものだけを必要な量だけ厳選して購入する。
そこには一部の隙もなく、ヘルマンが持っていないものは、すなわち必要なしと判断された品なのだ。
ああ……今はその完璧さが憎い。
「あの方は、いつも私の誕生日に素敵な品をくださいましたのに……」
十八歳の誕生日プレゼントを思い出し、思わず溜め息が零れた。
シシリーナ王宮から逃亡し、バーグレイ商会の護衛へ迎えられたサーフィは、アイリーンからトランクを一つ渡された。
ヘルマンから預かった誕生日プレゼントだと聞き、驚いた。
人生最悪の日になってしまった十八の誕生日、ヘルマンからプレゼントの包みを渡されはしたが、あれは他のものと一緒に王宮へ置いてきてしまったし、もっと小さな箱だった気がする。
ドキドキしながら開けると、中には着替えや生活用品など、隊商の暮らしに必要な品が一そろい入っていた。
『誕生日おめでとう。君の望んだ品は、僕には用意できないものでしたので、代わりにこちらを贈ります』
同封されたカードの文字に、涙が溢れた。
プレゼントに何が欲しいか聞かれ、サーフィはヘルマンの愛が欲しいと答えた。
それは、ヘルマンをひどく困らせる要求だったのだろう。
だから彼は、サーフィが二番目に欲しかった『自由』をくれたのだ。
「……何か、良いプレゼントの案がございませんでしょうか?」
おずおずとサーフィは尋ねる。
なんといっても、ヴェルナーはヘルマンと付き合いが長いし、サーフィの知らない側面を色々知っているようだ。
そのうえサーフィより年長で人生経験も豊富であり、贈り物を頻繁にやりとりする国王の身分。おまけに既婚者で夫婦円満。
夫へのプレゼントを相談するのに、これ以上ない適任者だろう。
「う〜む、他の人ならともかく、叔父上となると……」
ヴェルナーは顎に手をやり、真剣に考えていたが、やがて可笑しそうに肩をすくめた。
「私が知る限り、叔父上が欲しがったものなど、サーフィさん以外に無いのでな」
「そんな……」
思いがけない返答に、サーフィは顔を赤くする。
「叔父上の誕生日、か……」
公園からは、青空の下で尖塔を輝かせるフロッケンベルク城がよく見えた。城に視線を向け、ヴェルナーは感慨深そうに呟く。
「本来なら、フロッケンベルクの歴史に残る日だったかもしれないな」
「ええ……」
サーフィは頷いたが、胸中は複雑だった。
ヘルマンがもしフロッケンベルクの王族として生きていたら、全てが変わっていた。
稀代の名君として、国暦に名を刻んでいたかもしれないし、フロッケンベルクそのものを、微塵も残さず消滅させていたかもしれない。
だが少なくとも、サーフィとは出会わなかっただろう。
「力になれなくてすまない」
「いえ、ありがとうございました」