嫉妬、そして……-8
何かの間違いだ。
陽介とは何度か喧嘩もしたことあったし、こんなのいつものパターンのはず。
……でも、二人の関係を終わらせるような言葉は今まで発したことがない陽介。
冗談キツイよ?
零れる涙をそのままになんとか笑顔を作って陽介を見ると、彼もまたあたしにいつもの笑顔を向けてくれた。
陽介が笑いかけてくれたことにホッと胸を撫で下ろして、彼のシャツの裾を掴もうと手を伸ばすと、その手をグッと掴まれた。
驚いて陽介の顔を見上げると、その表情は申し訳なさそうに寂しく笑っていた。
「陽介……」
そして、掴んだ手をそっと離し、ガシガシをうなじの辺りを掻き毟りながら陽介は、
「……元カレよりも絶対大事にするっつったけど、出来そうにねえや。ごめんな、メグ。今度は一緒にいて安心できるような男見つけろよ」
と、白い歯を見せて無理した笑顔を見せていた。
でも、それは涙で滲んでボヤけて見える。
陽介は、本気であたしと別れようとしている。
「やだ……、別れたくないよ……! ごめん、あたしが悪かったから……!! もうくだらないやきもち妬いたりしない。だから、そんなこと言わないで……」
あたしは陽介の腕を掴んで必死に謝った。
好きなの。別れたくないの。
その想いをただただわかって欲しくて、何度も懇願する。
ここが大学の構内で、たくさんの人があたし達を見ては通り過ぎていく、そんなことすらどうでもよかった。
もう、陽介を繋ぎとめておけるなら形振りなんて構ってられなかったから。
でも、そんな想いは陽介に届かなかった。
「……ごめん」
それが、彼の最後の言葉だった。
もう、あたしを見てもくれなくなった陽介。
彼は、あたしが掴んだ手をそっと引き剥がすと、そのまま背を向け、ゆっくり正面玄関へと歩いて行く。
「やだ! 陽介、行かないで……!」
振り絞ったつもりの声は、涙につまって陽介には届かなかった。
ひんやりとしたリノリウムの床に崩れ落ちるように膝をつく。
スローモーションのように、やけにゆっくり時間が流れていた。
そして、最後まで一度も振り返らず小さくなっていく彼の背中。
ジョークにもならない。笑えない。
「っく……」
堰を切ったように溢れだす涙が、砂ぼこりが張り付いた手の上に弾く様をただ見つめることしか出来なかった。