第九話〜気持ち〜-1
あ、どうして許嫁になったのか話していなかった。
というか俺も知らないんだけど。
「母さん。なんで愛理のこと知ってるの?」
夏休み二日目の夕食時、俺は唐突にそんな質問をした。
「ごめん弘樹。もう少しわかりやすくお願い」
通じなかった。
うん。俺も言葉が足りてなかったと自覚している。
「えっと…俺が小学生の頃、母さんはどうやって愛理と知り合ったの?」
少なくとも家に連れてきたわけではないはずだ。
何しろ二回しか会話していないんだから。
「あんたはゲームばっかりしてたから知らなかったでしょうけど、母さんはちょくちょく愛理ちゃんの家に行ってたのよ」
「父さんも二、三度だけ行ったな」
初耳だよそんなの。
どういう経緯があってそうなったんだ。
保護者の集まりで知り合って、とかそんな感じだろうか。
「お母さんが電話したの」
「愛理のお母さん?電話って、母さんに?」
「うん。私が結婚の約束をしたとかなんとか」
ただの子どもの約束に、そんな敏感に反応しなくても…。
いや、愛理のお母さんは『そういう人』だったっけ。
きっと「さすが私の娘ね。もう旦那さんを見つけるなんて!」とか歓喜したに違いない。
「で、母さんたちはなんて?」
「あんた現実の女の子…っていうか男の子にもだけど、興味なさそうだったからね、こちらとしては是非お願いしますって言っておいたわ」
それで『許嫁』が成立してしまったというわけか。
小一でそんな心配をされる俺って…。
「まぁでも、佐藤さんたちが引っ越しちゃってからは、連絡取ってなかったんだけどね」
引越しをして疎遠になったのか。
よくある話だ。
少なくともエロゲーでは。
「それより弘樹、少し話がある。食事を終えたら待っていなさい」
「?」
で。夕食を終えて愛理を部屋で待たせ、俺は両親と向かい合っていた。
「話って?」
「そうだな…お前たちも年頃だ。色々と、まぁなんだ、異性に興味があるだろう」
「うん?」
「だからつまり、あー…なんだ。セックスしたいと思うのは仕方のないことだ」
「せっ…はぁ!?」
息子に何を言ってるんだこの親父は。
「真剣な話だ。それで、仕方はないかもしれないが、節度を守ってというかだな…」
「ご、ゴムをつけろって…?」