第六話〜接吻〜-3
まぁ半分ほど冗談なんだけど。
人はたしかに感情で動く生き物かもしれないが、感情だけで動く生き物でもない。
もし感情だけで動くなら前言のように今すぐレンレンを襲っている。
「弘樹…」
俺はレンレンに押し倒された。
「ま、待てって!他にも訊きたいことがあるんだよ!」
「あとで聞いてあげる」
レンレンの顔が近付いてくる。
目と鼻の先。
柔らかそうな、薄いピンク色の唇。
落ち着け。クールになれ山口弘樹。
こんなエロゲーみたいな展開があるはずがない。あってたまるか。
きっと目の前のレンレンは偽者だ。つつもたせに違いない。美人局と書いて『つつもたせ』だ。
「ん」
一瞬。
本当にほんの一瞬だけ、唇と唇が触れた。
「思ったより恥ずかしいね」
離れていくレンレンの唇。
真っ赤に染まった顔。
「………」
偽者なんかじゃ、ない。
いや、そんなことは最初からわかっていたことだ。
美人局なら巨乳の女性が迫ってくるはずだし、なんて言ったらレンレンに殴られそうだけど。
「レンレン…」
彼女の後頭部に腕を回し、顔を引き寄せる。
「弘樹…」
レンレンは抵抗せず、俺とのキスを受け入れた。
さっきよりは少しばかり長く、けれどもそれが何秒なのか、あるいは何分なのかわからないぐらいの時間。
唇を重ね合わせていた。
「ん…ふふ」
やがてどちらともなく唇を離すと、レンレンが嬉しそうに微笑んだ。
「もういっかい、してもいいよ」
「レンレンがしたいだけなんじゃないのか?」
「まぁそれもあるよね」
それしかないんじゃないのか。
いや、俺もしたいけどさ。
「で、でもいいのかよ」
「ん…?」
「俺は、お前のこと…」
まだ、好きになったわけではないのに。
キスしてからというのもなんだけど。
「やり方を変えたの」
「やり方…」
そういえば前にもそんなことを言っていた気がする。
「詳しくは内緒だけど」
「そうか…」
「…うん!」
レンレンは急に元気よく立ち上がった。
「一旦家に戻って、最低限の荷物を持ってくる」
手ブラできたもんな。
じゃなくて、手ぶら。
手ブラできたら大変だ。
「またねあとでね、弘樹」
「お、おう」
なんだか急に明るくなったような。いや、そもそも中二病だから素が今の状態なのかも。