第四話〜一ノ瀬可憐〜-4
まるでそこは私の席だと主張するかのように。
「何の話をしていたの?」
「「………」」
黙り込む俺と理科ちゃん。
レンレンは不思議そうに俺たちの顔を交互に見やった。
「ただいまー」
とその時、玄関のほうで声がした。弟が帰ってきたらしい。
ちなみに弟の名前は昴(すばる)といい、中学二年である。
「ひろにぃの彼女たち?」
居間に入ってきた弟改め昴は開口一番そう問うてきた。
「俺が二股するのが当たり前みたいな言い方はやめろ」
そもそも彼女ができたことすらないっての。
「だよねー。ひろにぃに彼女なんてできないか。オタ友?」
「違うわ」
否定したのはレンレンだ。
「加害者と被害者という関係よ」
「ややこしくなるからやめろ」
レンレン的には暗殺者とターゲットって言いたかったんだろうけど。
まるで俺が加害者(痴漢)で二人が被害者みたいじゃないか。
見ろ昴が「とうとうやっちゃったか」なんて呟きながら頭を抱えちまったじゃないか。
「絵として的を得ているってやつですね」
それを言うなら『得てして的を射ている』だろう。
理科ちゃんのボケに、俺は心の中でツッコでおいた。
というかどこが的を射ていたのか。
「父ちゃんたちには言わないでおいてあげるから、ちゃんと謝るんだぞ、ひろにぃ」
「だから何もしてないっての」
昴は俺の言葉を最後まで聞かずに廊下のほうへ消えてしまった。
「あ、私用事を思い出しました」
理科ちゃんが立ち上がる。
「可憐?用事なんてないでしょう」
「いいえ、とっても大事な用事を思い出しました。そんなわけなので弘樹様、レンをお願いしますね」
お嬢様口調で言いウインクしてくる理科ちゃん。
「任せろ」
「可憐が帰るなら、私も」
「まぁまぁ、レンはゆっくりしてって!」
理科ちゃんはどん!とレンレンをど突き、倒れこんでくるレンレンを俺がキャッチした。
「せ、セクハラ…!」
バタバタと足をバタつかせて暴れるレンレンだったが、がっしりと腰に手を回して押さえ込んでいるので逃げ出せないでいる。
「あとは頑張ってね、ねーね」
理科ちゃんはバタン、と廊下のドアを閉めて去ってしまった。