第四話〜一ノ瀬可憐〜-3
文面での一ノ瀬さんは大人だった。
きっとさっきみたいに直接「おっぱい触らせてください」って頼んでも、柔らかく微笑んで「結婚するまでお預けです」と返してくるはずなのだ。
「一ノ瀬さん、じゃないよな?」
「ほらやっぱり見破られてる!」
「?」
見破られてる…?肯定ってことでいいのか?
「あ、あの、ごめんなさい!」
一ノ瀬さん(偽)は立ち上がって九十度頭を下げた。
「本物の一ノ瀬さんはどうしたの?風邪かなにか?」
「……いません」
「?」
一ノ瀬さん(偽)は頭を下げたまま、
「一ノ瀬可憐なんて人は、最初からいないんです」
そう言って頭を上げた。
一ノ瀬さんが、最初からいない…?
言っている意味がよくわからない。俺は存在しない人物と文通をしていたってことなのか?
「一ノ瀬可憐は、ねーねが産み出した、空想の人、なんです…」
「ねーね…」
『ねーね』とはお姉さんのことを指す。とあるゲームで姉のことを「ねーね」、兄のことを「にーに」と呼んでいるヒロインがいたので知っていた。
「もしかして君は…」
「はい…騙していてごめんなさい。私は佐藤理科(さとう・りか)、ねーね…佐藤愛理の妹です」
レンレンの妹…たしかに小六の妹がいると言っていた。
…む…?小六…?
「おっぱい育ちすぎだろ!」
「どれだけ胸が好きなんですか!?この変態!」
一ノ瀬さん(偽)改め理科ちゃんに怒鳴られてしまった。
ってことはなに。俺は小六の女の子に「おっぱい触らせてください」とかお願いしてたわけ?
うわー…鬱だ死のう…。
「こほん。今まで弘樹さん…呼びづらいので『にーに』でいいですか?」
「『おにーたん』で頼む」
「………」
冷めた目で俺を見つめる理科ちゃん。
「…今までにーにと手紙やメールのやり取りをしていたのは、ねーねなんです」
「まぁ、そうなんだろうな…」
あれ?じゃああのおっぱい写真、マジでレンレンのおっぱいだったのか…?
どんだけ変態なんだよレンレン。
「弘樹、何してるの」
変態レンレンが戻ってきた。
俺が理科ちゃんの隣にいるのを不思議に、もしくは不快に感じたらしいレンレンは、無理矢理俺たちの間に座った。