第三話〜疑惑〜-4
「ちょっとお手洗いを借りるわね」
「どうぞお好きに」
レンレンは同人誌を静かに絨毯の上に置き、そそくさと部屋から出ていった。
なんだうんこか。
「一ノ瀬さんは何してるかな〜」
再びおっぱいを見せてもらうまで俺は諦めない、などと当初の予定(嫌われること)を忘れて意気込む俺はただの変態かもしれない。
一ノ瀬さんに電話をかける。しばらくしてコール音が鳴った。
「え…?」
部屋の中から。
レンレンが置いていった鞄の中から。
「はは、まさか…」
ピッ!っと電源ボタンを押して発信を中止する。
すると奇妙なことに、鞄の中の音もピタリと止んだ。
「おいおいおい」
俺は躊躇せずに鞄の中に手を突っ込み、レンレンのケータイを取り出した。
二台。普段レンレンが使っている赤いやつと、この間見た青いやつ。
そのうちのひとつ、青いほうのランプが点灯している。つまり鳴っていたのはこっちのケータイだ。
「許せレンレン」
他人のケータイを覗き見る趣味はない。だがどうしても気になってしまった。
パカッとケータイを開くと、液晶に『不在着信』と表示されていた。
誰からの電話なのかを確認する。
『山口弘樹』
「っ!?」
そこにあったのは俺の名前と、俺と同じ番号。
つまり、この青いケータイは一ノ瀬さんのものということになる。
「なんでレンレンが…」
友達とはいえ、ケータイを貸し借りしたりはしないだろう。レンレンは自分のケータイを持っているわけだし。
「まさか…」
友達ならメールや電話でやり取りしているはず。
そう思って一ノ瀬さんの着信履歴を確認してみると、たった一件しかなかった。さっきのである。
次に受信メールを確認してみたが、『弘樹』とつけられたフォルダの中に俺からのメールはあったものの、俺以外のメールはなかった。
「どういう…ことだ…?」
レンレンが一ノ瀬さんのケータイを持っていて、そのケータイのアドレスには俺の名前のみ。レンレンの名前すらない。
「まさか…レンレンが、一ノ瀬、なのか…?」
初めてレンレンに会ったのは、一ノ瀬さんから最初の手紙が届いた数日後だった。
あの時レンレンは「一ノ瀬という名前に心当たりはあるか」みたいなことを聞いてきたはずだ。