第一話〜転校生〜-3
この暗殺者さんは一ノ瀬さんと『文通しなければ殺す』、『文通すれば殺さない』と脅しているわけか。
「文通すればいいだけ?」
「えぇ。でもできれば、彼女の望みも叶えてあげて」
もしかして結婚云々のことを言っているのだろうか。それは年齢的にもまだ無理だ。
「まぁ、文通するぐらいで助かるならするけどさ」
例えレンの言ってることがはったり、嘘八百だったとしても、言ったとおり文通ぐらいで済むなら安いもんだ。
「でもいくつか質問してもいい?」
「……えぇ」
レンはようやくお腹から固い何かを離し、黒い布を取っ払った。
「……それ、何?」
「あなたもゲーマーならわからない?拳銃よ。それとも正式名称を知りたいのかしら」
「いや、知ってるからいい」
黒い布の下に隠れていたのは、子どもですら扱える拳銃だった。否、拳銃の形をしたおもちゃ、もっと言うなら水鉄砲だった。
「………」
もしかしてレン、いや佐藤さんは中二病なんじゃなかろうか。だって水鉄砲って……。
「聞きたいことはそれだけかしら」
「他にもある。むしろ水鉄砲はどうでもいい」
「水鉄砲ではないわ。これはハンドガンよ」
うわ、ツッコミどころ満載のボケをかましてきおった。本人は本気なのかもしれないが。
「こほん。とにかく質問させてくれ。一ノ瀬さんって、年はいくつ?」
「私たちと同じよ」
ってことは十七歳ですか。同い年であれだけ丁寧な文を書けるってことは、もしかしてお嬢様だったりするのか?
「あ。一ノ瀬さんの写真とかってある?」
「そんなものないわ。あっても見せないけれど」
「あるなら見せてくれてもいいじゃん」
「ないと言ったの。撃つわよ」
水鉄砲を向けてくる佐藤さん。全然怖くない。
「撃てるもんなら撃ってみろ」
水鉄砲に撃たれたって死にはしない。それどころか痛くもない。
「ばーんっ!」
自ら効果音を叫び、佐藤さんは本当に水鉄砲のトリガーを引いた。
「うひゃっ!?」
当たり前だけど冷たい水が顔にかかる。今が夏でよかった。
「本当にかけるやつがあるか!」
「あ、ごめんなさい……」
自称暗殺者さんに謝れちゃったよ。暗殺者なら謝っちゃダメだろそこは。
「人に向けたらダメって書いてあるだろ?」
「私に説教?私は暗殺者よ」
諭そうと思ったら一瞬で復活しちゃったよ。なんなんだこの痛い人。