第一話〜転校生〜-2
俺は公園を選び、早足で進んでいく。この時間なら子どもも遊んでいるし、ストーカーもおかしなことはしてこないはずだ。
だが直後に俺は後悔することになった。
「動かないで」
奇妙な既視感とともに、背中に固い何かを押しあてられる。
「ゆっくり振り向きなさい」
仕方なく言うとおりにする。
聞いたことのある声だと思っていたが、その正体は転校生の佐藤さんだった。
手元を黒い布で覆い、何か――恐らくは拳銃を隠している。
「久しぶり、と言えばわかるかしら」
「ああ。いつか聞いた声だな」
一ヶ月ほど前、ほんの数分だけ会話を交わした自称『暗殺者』の声と似ているとは思っていた。だがまさか本人だったとは。
「私の顔を見た感想は?」
こんな状況で聞くことかと思ったが、以前に比べて全然余裕があったので彼女を観察する。
黒いショートカットの髪に、細められた瞳、小さい鼻に、柔らかそうな唇、整った輪郭。なるほど見た目だけは美少女だ。
「可愛いんじゃないか?」
「そう。それよりあなた、文通相手がいるでしょう?」
え?顔の感想言ったのに「そう」の一言で終わっちゃいましたよ?
「いるはずよね?」
お腹に固い何かを押しあてられる。
脅しているつもりらしいんだが、向かい合ったら簡単に拳銃(?)奪えそうだよな。佐藤さん、腕細いし力があるようには見えない。
「いや、文通なんてしていないけど?」
一ノ瀬さんからはあれから音沙汰なしだし、他に手紙をやりとりするような相手はいない。メールならするけど。
「そういえば佐藤さん」
「それは偽名。今の私の名前は『レン』よ。前にも言ったでしょう」
「じゃあ、レン」
「なに」
俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「レンは、一ノ瀬さんのことを知っているのか?」
一ヶ月ほど前にレンに襲われたときに「一ノ瀬」の名前を出していたし、さっきも「文通」という単語を出していた。つまりレンは、俺が一ノ瀬さんと文通していたことを知っているってことになるわけだ。
「……えぇ。彼女は私の生きる希望なのよ」
よくわからないことを言い出すレン。
「あなたが彼女と文通を続けているなら、彼女のためにあなたを殺すのを延期したのだけど……どうする?」