プロローグ-1
俺の名前は山口弘樹。自分で言うのもなんだが、ぱっとしないただのオタクだ。
「弘樹。あんたに手紙がきてるわよ」
学校から帰宅するなり母さんにそう言われ、居間にあるテーブルの上に乱雑に置かれた手紙や葉書の中からそれを見つける。
「手紙…?」
今のご時世に手紙とは珍しい。
送り主の名は『一ノ瀬可憐』とあった。聞き覚えのない名前だが、たしかに宛先はここだし、俺の名前も書いてある。郵便の配達員が間違えたってことはなさそうだ。
「それ女の子よね?もしかしてラブレター?」
母さんがにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべ、興味津々に聞いてくる。
「知るかっての」
たしかに名前は女の子みたいだけど、誰がこんなオタクにラブレターなんか出すかっての。
俺は特に期待していなかったため、居間でその手紙を黙読した。
『山口弘樹様――突然手紙をお出ししてごめんなさい』
始まりはそんな感じだった。
『いつもあなたのことを見ていました。結婚してください』
「ぶっ!?」
俺は思わず飲んでいた麦茶を吹き出してしまう。
母さんが言うようなラブレターではないかもしれないけど、これはそのさらに上をいくんじゃないか!?
「何が書いてあったの?」
「い、いや……」
手紙でプロポーズされた、なんて言えるかっての。
『いつも通学しているお姿を拝見しておりました。かっこいいです』
普通に通学してるだけなのに、何がかっこいいんだ?具体的なことが書いてないじゃないか。
『子供は4人欲しいです』
「いやいやいやいや」
なんだこの人。話が飛躍しすぎだろう。というかまだなにも返事していないのに。
もしかしたら新手の嫌がらせかもしれないと思った。なんせ俺はオタクだから、俺をよく思わない人間が俺をハメるために……ってのはあり得る話だ。というか、そのほうが納得できる。
そんなわけで、俺はその手紙に返事を出さずに放置することにした。
***
それから一週間が過ぎたある日。
ゲームショップで最近出たばかりの美少女ゲームを買い、ゲームセンターにて少し音ゲーで遊び、帰る頃には外は真っ暗になっていた。
「腹減ったな……」
山口家の夕食は他の家に比べると遅く、午後9時にとることが多い。早くても8時だ。なので今から帰ればギリギリ夕食に間に合うだろうという時間だった。