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帰り道。
真紀は鉄弥と絢の会話を思い出しては、同時に自分が元の事を何も知らないんだなと、改めて痛感していた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「元くんのバイト先って、飲み屋さん、だっけ?」
「あぁ。バー、みたいな」
「未成年なのに?」
「別に業務内で飲むわけじゃないだろうしなぁ。まぁ、あいつの先輩がオーナーだから、その辺は融通利くんじゃない?」
「先輩って...高校のOBだっけ?」
「一応そうなるんだけど、すっげー年上だからそんな実感も無いっていうか。さっきも絢ちゃんと話したけどさ、げんちゃん中坊ん時結構やんちゃで。中学入ってから一時期、あいつうちに遊びに来なかった時期あったじゃん?」
「うん」
「調度その頃だな。喧嘩とか盗みで補導されまくっててさ。おばあちゃん達がいっつも警察署やら学校に来ては頭下げてて。でさ、あいつ、いい大人相手に突っ掛かってな。それがその先輩。こてんぱんに潰されて」
「....うん」
「でさ、まぁ細かいとこは俺も分からないけど、その先輩がげんちゃんのことおもしれーガキだって気に入って。以来の仲なんだと」
「その....先輩は...その...恐い人っていうか...大丈夫なの?」
「あぁ。俺も何回か会ったことあるけど、そっちではないっぽい。嫁さん警官だし」
「え...でも元くん未成年なのに雇って...」
「目を瞑ってんじゃないの?まぁげんちゃんが楽しくやってんならそれでいいっしょ」
「....うん」
246方面からは、忙しなく車の音が響く。
「あ、真紀」
「なに?」
「今日げんちゃんさ、真紀のこと「可愛くなった」、「女性らしくなった」って言ってたぞ」
「え...ほんとに?」
「うん。あいつ、ちゃんと見てるんだなーって」
「そっかぁ.....ふふっ」
「なんだよ、嬉しそうだな?」
「なんでもないもんっ!」
真紀の歩が先に進む。
頭には寝顔の元が思い浮かぶ。
鉄弥からは見えないが、きっと真紀は満面の笑顔なんだろう。
星は見えないが、無数の営みの灯りが歩道を照らす。
兄として、妹に変な望みを持たせてしまったかと後悔した。
同時に、微かでも希望の光を見せてあげたい、とも思う。
「でも美帆ちゃん、すっげーいい彼女なんだよなぁ......」
シスコンの溜め息は、雑踏に掻き消された。