畑上自己満ラジオ@の裏側っす-1
自己満は! 畑上自己満ラジオ@でパーソナリティをしてるっす。上辰彦っす。
今日は三回目の収録が行われるんすけど、収録前の様子をちょこっとだけリポートしたいと思うっす。
「アンタ、何一人でぶつぶつ言ってんの?」
由紀様こと、メインパーソナリティを勤めてらっしゃる、畑由紀様が声をかけてきたっす。
「だから、何ぶつぶつ言ってんのってって。ちょっと頭おかしくなった?」
いや違うんすよ由紀様。リスナーの皆様にラジオの裏側を垣間見てもらおうと思って、リポートしてるっすよ。
「ああ、恒例の裏ね。まだ三回目なのに、もう裏? ちょっとペースが早いわね。ま、頑張んなさいな」
そういうと由紀様は、今、僕らが居る会議室のパイプ椅子に腰かけてコーヒーを飲みながら雑誌に目を落とし始めたっす。
さて、そういえば場所の説明がまだだったすよね? ここは、控え室兼会議室っす。打合せとかはスタジオでやるっすから、ここは雑談するための部屋っすね。今は、僕と由紀様だけっす。
そんな事をリポートしていたら、ノックもなしに会議室のドアが開いたっす。
「あれ? 二人だけ?」
入って来たのは、中山プロデューサーっす。20代の頃からプロデューサーとして活躍してるすごい人っす。
「これ、角のケーキ屋のチーズケーキ……」
「いただきます!」
中山プロデューサーが言い終わる前に、由紀様がケーキの入った箱を奪い取り、ささっと机の上に取り出したっす。オーソドックスなベイクドチーズケーキがワンホールっすね。
「すっごい美味しそう! 中山さんありがとうございます。少しだけ見直しました」
「少しだけってのが気になるけど、まあいいか。このあとすぐに出なきゃ行けないから、みんなで分けてね」
それだけ言うと中山プロデューサーはそそくさと会議室を後にしたっす。
中山プロデューサーは最近忙しそうっすね。
「アンタ、早く、みんな、呼ぶ。私、理性、押さえる、必死」
手をお尻のしたに滑り込ませた由紀様は、目を血走らせながら、片言で僕に言ってきたっす。本当にこの人は食欲の魔神っすよ……
ちょ、ちょっと待っててくださいっす! そういうと僕は部屋を飛び出したっす。
廊下を進んだ先に、防音の為に分厚くなっている重い扉があるっす。
いつも自己満ラジオを収録しているスタジオ。ミキサーと呼ばれる収録機材が並んでる手前側のスペースが、サブ。奥の扉を通った先が、僕と由紀様がトークしているブースっす。
サブには三人いたっす。
ミキサーをいじっている体格のガッチリした人が、音声技術の青木さんっす。
壁際にもうけられたソファーに座って、ノートパソコンとにらめっこしているのがラジオにも出演した、構成作家の坂本さん。そして、その隣に座りノートパソコンを覗き込んでいるのが、ディレクターの長峰さん。ここだけの話、坂本さんと長峰さんは婚約中っす。
「あらあらあら? 上さんどーしたのですの?」
キーキーするような、高い音域の女性ボイスが聞こえてきたっす。でも、声はすれども姿は見えず。長峰さんはアルトボイスっすから違うし、坂本さんと青木さんな訳もないっすよね。
「もーまたそーやってイジメる! ちっさいからってー馬鹿にしーすーぎ」
キョロキョロとさ迷わせていた視線を、声を頼りに下へと向けたっす。
ああ、新澤さん。すんません気付かなかったっす…。
「ころすぞ」
身長が140に満たないこの女性は、新澤杏(にいざわあん)さん。アシスタントさんっすね。普段の言動は子供のようなんっすけど、気に入らないことがあるとすぐに「ころすぞ」って言っちゃうキツイ一面もあるっす。
そんな事より、皆さん中山プロデューサーがケーキを差し入れてくれたっす。会議室で由紀様が食欲と戦ってるんで早く来て欲しいっす!
「ケーキ! ねぇーイチゴは乗ってる? イチゴー!」
いや、チーズケーキなんで残念ながらっす。
「ころすぞ」
「じゃあ打合せはケーキを食べながらにしましょうか。杏ちゃん、お茶の準備してね」
長峰さんの指示で、僕をにらみつけていた新澤さんは部屋の隅にあるコーヒーメーカーにむかって行ったっす。イチゴがのってないのは、僕のせいじゃないっすよ……