best friend-9
◇ ◇ ◇
「あ、気がついた」
うっすら開けた目に飛び込んできたのは、少しほうれい線が目立つ、優しそうな中年の女の人の顔だった。
白い天井、白い壁、白い仕切りカーテンに白いベッド、白い毛布……。
白づくしの空間に、保健室であることに気付いた。
とすれば、白衣を着たこの女の人は、養護教諭なのだろう。
「あなた、貧血で倒れたのよ」
養護教諭は、少し呆れた声でそう言った。
そう言われて倒れる寸前の記憶が微かに蘇る。
恵のドッペルゲンガーに、私は一気に気持ち悪くなって、ぶっ倒れてしまったのだ。
最初が肝心って思っていたのにいきなり倒れるなんて、最悪なスタートだ。
私は髪をガシガシ掻きむしりながら体をゆっくり起こした、その時だった。
「突然倒れるから、びっくりしちゃったよ」
突然、仕切りカーテンを控えめに開けて、女の子が狭い空間に押し入ってきた。
その顔を見た瞬間、私の体は再び強張ってしまった。
恵もどき……。
いくらか平静を取り戻せた私は、本物の恵がこんなとこにいるわけないと、ようやく正気になれた。
でも、この娘のこの顔は、やはり私の体を震え上がらせるほどの力がある。
私の怯えた顔に気付かない恵もどきは、ニッコリ笑って私の枕元の横に立った。
なんで、こんなとこにいんのよ。
私は彼女から目を逸らし、救いを求めるように養護教諭に視線を移した。
「ああ、彼女があなたを連れてきてくれたのよ」
養護教諭はすでに自分のデスクに戻っていて、何かを書き込みながら言った。
「でも、ひとりじゃここまで連れてくるのが無理だったから、里奈ちゃんの反対隣の席の男の子にも手伝ってもらったの。
里奈ちゃんからも後でテルヒコくんにお礼言ってね」
恵もどきは優しい微笑みで私の肩を叩いた。
この笑顔にはもう騙されるものか。
もはや、恵と恵もどきの違いなどどうでもよくなっていた。
この顔した人間はろくな奴がいないんだ。
私は眉をひそめて睨むように、自分を覆う毛布を見ていた。
「…………」
「あ、里奈ちゃんさ。多分スカート捲り過ぎたんだよ。
それでお腹が苦しくなって倒れたと思うの。
あたしも経験あるからわかるんだ。
だから悪いとは思ったんだけど、スカート脱がさせてもらったから」
「え!?」
突然の恵もどきの言葉に、私は慌てて毛布の中を覗き込んだ。
見ればまだ子供っぽい白い綿の下着が露わになっていて、小さく悲鳴をあげた。
そんな私を見て、恵もどきは
「大丈夫だって、テルヒコくんがいなくなってから脱がせたから、あたししか里奈ちゃんのパンツ見てないって」
とイタズラっぽく笑った。