best friend-5
◇ ◇ ◇
私を突き飛ばした恵をキッと睨みつける。
彼女は私の初めての反抗に、“へぇ”と意外そうに口をすぼませた。
それでも余裕のある顔がまた憎たらしい。
私は声を振り絞って恵に言った。
「……私はせいせいするわよ。
あんたのツラ見なくて済むと思うと」
「あら、あたしは淋しいのに。
あんたいじめてストレス発散できなくなるもの」
ったく、減らず口が。
「ホント最低だよ、恵は。
あんたみたいな卑怯な人間は、絶対いつか痛い目見るんだからね」
「その前に、あんたが痛い目に合う心配した方がいいんじゃない?
いじめられっ子って、いくら環境変えたってどこまでもいじめられっ子なのよ。
そういうオーラっての? それがにじみ出てくるものよ。
あんたは特に辛気臭くて見てる人を苛つかせるから、友達なんてまずできないわね」
恵の言葉にカーッとなって、彼女の襟刳りを掴みかかりそうになった。
でもここで手を出そうものなら、得意の被害者ぶる演技で通行人の人たちにいきなり殴られたと訴えかけるだろう。
弱い者の気持ちなんてわからないくせに、弱い者を演じる才能だけはピカイチなのだ。
なんとかこの女をムカつかせてやりたくなり、私はなるべく無表情を装い、
「だから私は必死に勉強して、イジメをするようなくっだらないバカのいない学校に通うのよ」
と、感情を込めずに言った。
さすがに恵はムッとした顔をした。
心の中でニヤリと笑う。
私は友達がいなかったから、普通の子が友達と過ごす時間を全て勉強に充ててきた。
それも、今までの私を知らない、まっさらな環境で生まれ変わるために。
そして新しい場所で、かけがえのない親友を得るという目標のために。
だから、恵が言ったことはどうしても許せなかった。
鼠だって牙をむくんだから。
「でもさ、あんたみたいにガリ勉しか取り柄のない女なんて誰も相手にしないよ。
ああ、だから勉強しか取り柄のないA高選んだのか。
ま、新しい学校でも大好きなお勉強頑張ってよ。
あたし、友達と待ち合わせしてるから」
恵はそう言って、私のふくらはぎを思いっきり蹴飛ばしてから、スタスタと朝もやの中へ消えていった。
私がいくら嫌みを言った所で、恵はへこたれることはない。
それは、恵にはたくさんの友達がいるという事実。
それが私と恵の勝敗をわけるたった一つの、そして決定的な要因だった。