best friend-19
――恵子は昨日、私を追いかけて来なかった?
私はバッと勢いよく左隣に座る恵子の顔を見た。
そこにはいつもと変わらない、でもほんの少しバツの悪そうにしている恵子の顔があった。
昨日あれだけ渾身の力を振り絞ってめちゃくちゃ顔を殴ったはずなのに。
骨がぶつかる音も、みるみるうちに赤黒く腫れ上がる彼女の顔も、耳にいつまでも残る悲痛な叫びもはっきり覚えている。
それなのに、彼女は傷一つない綺麗な顔をこちらに向けていた。
なんで、どうして、という言葉しか出て来ない私の頭の中に、一人の少女の姿が突然浮かんできた。
――昨日、殴った相手は恵子ではなく恵だったんだ。
なぜ、彼女が私にいきなり謝ってきたのか理由はわからない。
アヤと何かもめたりでもしたのだろうか?
でも、そんなことどうでもいい。
きっと恵の顔はひどいことになっていて、もしかしたら一生残る傷をつけてしまったのかもしれない。
そう思うと、急に笑いが止まらなくなってきた。
必死に許しを請う姿、醜く腫れていく顔、恐怖に怯えた瞳、殴られたときに漏れる、蛙を踏んづけたような声。
傷つけた相手が恵子じゃなく恵だったことに心の底から安堵した。
私の勘違いだったとは言え、恵子は私に、思いがけずに復讐するチャンスをくれた。
いつでも私のことを考えてくれた、恵子こそ私の唯一無二の親友だったんだ。
私は恵子に向かってニッコリ笑うと、
「私のために、ありがとう。
これからも、よろしくね」
と、握手した。
〜end〜