ある殺人犯-3
「月島さん、どうやって合鍵を作ったのですか?
そしてどうして窓のガラスが切られていたのですか?」
「合鍵は玄関の植木の下に隠しているのを前に見つけて、それをホームセンターに持って行って、合鍵を作りました。
鍵はその後元通りにしたので、気づかなかった筈です。
窓ガラスを切ったのは殺した後にした偽装工作です。
実際的に家の中の人間が起きている時に窓ガラスを切ると、途中で気づかれますから」
またしても如月警視が口惜しがって床を踏み鳴らした。
するとそれがタイムストップの合図だと勘違いして2人とも動き出した。
私は慌ててもう一度ヒプノ・フラッシュを光らせてタイム・ストップを再開した。
「困りますよ、如月さん。床を鳴らしたら、それが催眠を解く合図なんですから」
「す……すみません。向山さん、後は合鍵を作った日時と捨てた場所を詳しく聞きだしてくれませんか。
そしてその他に物証となるものはないか聞いてくれませんか」
合鍵については詳しく聞きだした。だが更に何か決定的なものはないかと私は聞いた。
「月島さん、たとえばこれが見つかると非常に困るけれど、どうしても処分できなかったものって何かありますか?」
私は当てずっぽうで言ってみた。そんな都合の良い物があるはずがないのだが……。
「あることはあるけど、それは絶対見つからないところにある」
「それはなんですか?」
私は心の中でビンゴ!と叫んだ。如月警視も目を輝かせていた。
「俺は……あいつを殺した後で、自分も死ぬことを考えた。
だから遺書も書いていた。
そこには、殺人計画と理由とを書いていたんだ」
「その遺書はどこに隠したんですか?」
「それは俺が死んだときに……」
そのときドアがノックされた。誰かが来る。もうタイムオーバーだ。
私は足を踏み鳴らした。タイムストップは終了したのだ。
「な…なんで、ここにあんたが来たんだ?」
下川刑事が私に言った。彼は入ってきたばかりの私に言った積りになっている。
「あ、間違えました」
私は一礼して、ドアを開けた。
大きく開けてドアの陰になり、外の人間を中に入れると素早く外に出た。
そのとき部屋に入って来た刑事の声が聞こえた。
「そろそろ取調べが始まるからモニター室に入ろうとしたら鍵がかかっていて……」
私が廊下に出て歩き始めると、如月警視が追いかけて来た。
「向山さん、ありがとう。もう少しのところで遺書の隠し場所を聞けたのに残念です。」
私は如月警視に言った。
「今はすごく被暗示性が高まっていますから、穏やかに聞けば教えてくれるかもしれませんよ。
例えば、あんな酷い殺人を犯したのだから死を覚悟したこともあったのかとか、そのとき遺書を書かなかったのかとか、聞いてみれば案外すらっと言うかもしれませんよ」
被暗示性というのは催眠にかかりやすさのことで、まだ完全に醒めていないので、その度合いが高いと教えたのだ。
如月警視は大きく頷くと取り調べ室に戻って行った。