生徒会へようこそ【MISSION'5'生徒会を再建せよ!】-21
●優&寿絵瑠●
「オッさんは…自分の気持ちを隠していた早羽さんにずっと怒っていたのだな」
ふぅーと僕は短い溜め息を吐いた。
終わった。長かったー。
「オッさんは友達を人一倍大切にするからね。早羽さんは少しぐらい弱いところ見せても良かったんだ。
きっと、オッさんだって悲しかったと思うよ」
「だからオッさんも『そんなことどうでもいい』と言っていたのだな」
「うん。こう考えればぜーんぶ辻褄が合うでしょう?」
そうだな、と宝さんが微笑んだ。
早羽さんが一人で抱え込もうとしなければ。
オッさんが短気でも不器用でもなければ。
僕らの出る幕は無かったかもしれない。
あーあ、なんて手のかかる先輩達なんだ。全くもうっ…。
しかし、疲れたなあ〜。もう、夜中だ。家に帰って寝たい。
「なぁ、優、もし…もしもの話、なんだがな」
僕が足を投げ出してだらりと延びていると、宝さんがふいに口を開いた。
「ん?」
隣を見ると、伏し目がちにして落ち着きなく指を弄ったり、顔を触ったりしていた。
様子が変だ。
また何かしでかすのか?嫌な予感が頭を過った。
「な、何かな?」
恐る恐る聞く。
「あ、あのなもしな、寿絵瑠に変な噂が立ったら…優は…どうする?」
………………へ?
ただの質問?
様子がおかしかったので、身構えていたが取り越し苦労だったようだ。
「そうだなぁ。僕は僕の知っている宝さんしか信じないよ」
正義感が強くて優しくて、どこか抜けてるおっかない、だいぶ変わったお嬢様。
それが宝さん。
今更、現在進行形で流れている『クールで一匹狼なお嬢様』っていう噂を信じろと言われても無理な話だ。
だからって、紅や他の人に変わってるとかおっかないとか言っても信じて貰えないんだろうな。
所詮噂なんて、何も知らない人が流すんだから信憑性は薄い。
しかし宝さん、僕の返答にノーリアクションだな。この答えちょっと失礼だったかな?もっとこう、オブラートに包んで粋な答えをした方が良かったのかも?
でも粋って何だ!15歳に粋は早いだろ!
そんなことを考えていたら
「…そうか!」
とびっきりの笑顔を僕に見せてくれた。
普段の行動や言動で忘れてしまいそうになる、この世界一の素敵な笑顔。
きっとこの笑顔だけは、誰が見ても共通の認識になるに違いない。
心臓が一気に跳ね上がる。この子はいつも、急に僕を苦しくさせる。
ここは誰もいない、旧校舎の屋上。
先輩達が頭を冷すまでの待合室として渡邊先生が特別に入れてくれた。
空には細い三日月と、満点の星空。
この学校にこの景色を見た人は誰もいない。僕と宝さんだけだ。
これってもしや、すごいチャンスなんじゃないだか?
よくよく考えれば最高のロケーションで二人きり。
ここは手の一つでも握っておかないと、宝さんの中の僕の存在が浮き出ないんじゃないか?
そうだよ!今やらないでいつやんるんだよ!
ほら、ちらりと隣を見れば座っている宝さんの無防備な左手が晒されてるじゃないか。
頑張れ僕!宝さんの特別になるチャンスだ。
よぉーしやるぞ!あと少し…あと少し…うおおおああああ!!
「さて!!!」
満足げな顔で宝さんが立ち上がった。
「…………」
僕はというと、つい数秒前まで宝さんの手があったところで空しく握り拳を作っている。
「そろそろ先輩達の決着もついたんじゃないか?行くぞ優!はぁー眠たいなぁー」
…僕はこの拳をどこに納めればいいんだ。