カノジョの定義-1
「ごめんね、待った?」
そう言って現れた、並みの男じゃ決して手が届かなそうなモデル級のイイ女。
あたしは彼女が近付いてくると、暇潰しにいじっていたスマホをテーブルの隅に置いた。
くるみさんが待ち合わせしていたカフェに入って来たときに、群衆の視線が一気に彼女に集まった。
それほど彼女の美しさは群を抜いていて。
白と黒のバイカラーのワンピース一枚をサラリと着こなすくるみさんは、あたしの向かいに腰を落とすと、その長い脚を斜めに揃えてから、小さなクラッチバッグを膝の上に乗せた。
ホント綺麗、この娘……。
一緒にいる自分が気後れするほど。
なんだかやるせなくなったあたしは、肩を小さく竦めてしまった。
「もう注文しちゃった?」
「い、いえ、まだです……」
「そっか。ここね、ケーキはみんな美味しいんだけど、特にオススメなのはガトーショコラなの。あたしはそれにするけど、恵ちゃんは?」
「あ、じゃあそれで……」
あたしが小さな声でそううなずくと、くるみさんはニッコリ笑って店員さんに手をあげた。
……はあ。なんであたしは押しに弱いかな。
流れでくるみさんと連絡先を交換したものの、社交辞令で終わると思っていたら、本当にお茶の誘いを受けてしまったあたし。
何度かお断りしたんだけれど、日を変えて誘ってくるくるみさんに根負けして、結局会うことになってしまった。
陽介の元セフレと、カノジョの奇妙な組み合わせ。
くるみさんは、あたしの顔を見るのもイヤだったんじゃないかな?
それとも単なる身体だけの関係だったから、陽介のことは何とも思ってないのかな。
陽介は、「あいつは俺のこと何とも思ってない」なんて言ってあたしを安心させてくれたけど……。
ニコニコしながらメニューを眺めているくるみさんを見ていると、頭がこんがらがってくる。
だって、こないだの陽介を見つめる熱い視線。あれはどう見たって好きな人を見つめるものだったから。