カノジョの定義-5
「恵ちゃんってさ、陽介と付き合ってどれくらいになるの?」
「……半年くらい……」
声が震えて語尾が弱くなる。陽介はあたしの彼氏で、それは揺るがないのに、どうしてこうも不安になるのか。
「そっか、じゃあそろそろかな」
……何がよ。
くるみさんに対して苛立ちが募るくせに、それを態度に出す勇気すらない。
「陽介って彼女ができるとそうやって合わせてあげてるんだけど、どこかで綻びが出てくるのよね」
「綻び……?」
「陽介は優しいし、女の子の扱い方上手いでしょ? だから彼女ができても最初のうちはうまくいくんだけど、だんだん彼女のペースに合わせた付き合い方に疲れてくるんだ」
くるみさんはそう言ってから、ひそひそ話をするみたい口の横に手をあてて、少し声のトーンを落としてこう言った。
「――だから、あたしが疲れた陽介を癒してあげてるの」
思わず目を見開いてくるみさんを見る。すると彼女は妖艶な笑みで肩にかかった髪の毛をサラリと後ろに流した。
「恋人がいると、だんだんそれが疲れてくるんだって。だって、誕生日、クリスマス、バレンタインにホワイトデー……恋人のイベントはたくさんあるでしょ? 普段のデートだって、やれディズニーランド連れてけとか旅行いこうとか。アイツ根がめんどくさがりだから、しんどくなってくるのよ。
そうなるのが、大体付き合って半年くらいしてから、なの」
途端に身体がビクッと強張った。
もうじきあたしの誕生日。今年の誕生日は陽介がいてくれるって今からワクワクしていた。
本音はプレゼントだって、期待していた。
別に高価なものなんていらないけれど、アクセサリーなんかもらえたら、いつでも身に付けていられるなんて、勝手にそう思っていた。
でも、陽介はそういうイベントごとは苦手だったんだ……。
ジワリと目の奥が痛み始める。
もう、この人の話なんて聞きたくない。
なのに、くるみさんは立て板に水のごとく陽介のことを話し続ける。
あたしの知らない陽介を。
「彼女と付き合って半年くらいになると、決まってあたしに連絡がくるの、疲れたーって。まあ、女が癒してあげるやり方なんて決まってるけれどね。で、陽介はいつも言うのよ。やっぱりくるみの身体が一番相性がいいって」
――くるみさんの声が、やけに遠く聞こえた。