カノジョの定義-2
ガトーショコラとアイスティーが2つずつ、テーブルの上に並べられたのは、オーダーを済ませて10分ほどのことだった。
濃い茶色の上に、粉雪のように散らばった粉砂糖に、少しとろけた生クリームがちょこんと乗ったそれに、思わず喉が鳴る。
「わあ、美味しそう」
微妙な状況なのに、ポロリと感想が出てしまったあたしに、くるみさんは頬杖つきながら微笑んだ。
「ここのケーキはどれも絶品なのよ。今日はあたしが無理に誘ったんだし、ぜひご馳走させて」
「え? でも……」
「いいのいいの、遠慮しないでよ」
頑として譲らないくるみさんの申し出に、あたしは小さく頭を下げるしか出来なかった。
……かなわないなあ。
何だか全てにおいて、格の違いみたいなものを見せつけられているような、そんな感じ。
容姿やファッションセンス、立ち振舞いやこういった気配りまで。
勝敗を決めること自体おかしいかもしれないけど、負けたって感じでいっぱいだ。
だけど、あたしには陽介がいるんだ。
陽介は自分を信じて、と言っていた。
あたしは陽介のカノジョで、くるみさんは単なる昔のセフレ。
だから、あたしとくるみさんがお茶をしていたって、陽介がらみのことで不安になる必要がない。
何度も自分にそう言い聞かせる。どこか感じる胸騒ぎを押し隠しながら。
無意識のうちに、あたしは膝を握る手に力を込めた。
「陽介とはよく来る? こんな感じのとこ」
くるみさんはアイスティーを一口飲み込んでから、あたしにそう訊ねた。
……きた。
まあ、あたしとくるみさんの間に共通の話題っていったら陽介のことしかないんだけど、それでもくるみさんの口から彼の名前が出てくると心がざわつく。
いつの間にかカラカラに乾いていた喉を潤すべく、あたしもくるみさんにならって、アイスティーを一口飲み込む。
コン、とテーブルに置いたグラスは、まるで今のあたしみたいにツーッと汗を伝っていた。