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杉山梢の独り言
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竹中茂との出会い-1

そんなとき竹中茂(たけなか しげる)に出会いました。

高校のキャンプ宿泊学習のときに、女の子たちがキャーキャーと悲鳴をあげていました。

私がどうしたのかと行ってみると、小さなトカゲが地面を歩いているところでした。

私はそのトカゲを摘んで、藪の方にポイと捨ててその場を去りました。

そのとき私を呼び止めた男子がいたのです。

「おい、お前なんて言うんだ? 俺、竹中茂」

私は杉山梢だけど、それが? と聞き返しました。

「お前、面白い奴だな。トカゲが怖くないのか?」

どう見たって人間の方が大きくて強いでしょう。私は笑って言いました。

「そう言われればそうだな」

竹中茂も笑いました。これが、彼との初めての出会いでした。

後で聞くと、この竹中は有名な女嫌いのひねくれものらしいのです。

でも彼は私にはなんの隔たりもない口調で話しかけてくれました。

もっとも私自身は男子生徒に対して抵抗なく口を利ける人間だったので、その点も向こうが話しやすかったのかもしれません。

私は竹中についてちょっと情報を集めてみました。

姉が3人いて、末っ子の男の子だということ。

どうやらその姉が3人とも軟派で、その反動で女嫌いになったらしいということ。

それで私は納得しました。

事実観察を続けると彼が嫌いな女のタイプは、軟派タイプが多いようです。

つまり女を前面に出すタイプがお気に召さないようなのです。

私はそういうことに一切興味がないから、抵抗感がなかったのかもしれません。

とすれば、今の松野緑は竹中にとっては嫌いなタイプになるはずです。

果たしてその予想通りでした。

楠木実(くすのき みのる)という男が松野緑に惚れて、自分の気持ちを竹中に頼んで伝えて貰おうとしたのです。

すると竹中はラブレターの代筆をして松野に手渡しました。

それを読んで、すぐ松野は本人の代わりに竹中が書いたものだと見破ったそうです。

何故ならその文面には女嫌いの竹中が書きそうなひねくれた言い方が散りばめられていたからだと言うのです。

そして、松野は私に言いました。

「ちょっと梢さんは竹中とよく話をしているわね。あの男が好き?」

いやいや……とんでもない。そんな特別な感情はないと私は否定しました。

その実、心の中では彼に対する興味が湧いていたのは確かです。

「なんでもないなら、ちょっと名前を貸してくれる? 

そういう訳で、私あいつに仕返しをしたいの

梢さんのラブレターを私が代筆してあいつに渡してやる」

そのとき私は嫌な予感がしました。松野は竹中が好きなんじゃないかと。

私が普通に竹中と口を利いているので、もしかして私を排除して自分に関心を持たせるための一石二鳥の策なのかと?

だが本人はそれにまだ気がついていない。

ただ頭に血が上っていて、私に対する気遣いも忘れている。

どんな男の子でも自分のことを好きになるのに、竹中がそうでないのが気になったというのが原因なのかもしれません。

私は松野の無茶苦茶な復讐プランに乗ってやることにしました。

というのは竹中ならそのラブレターを私が書いたものでないことを見破るに違いないと思ったからです。

もう1つは私がいくら竹中に関心があっても、私から彼にラブレターを出すことは絶対考えられないからです。

それだけに私は竹中がどんな反応を示すか知りたい気になりました。

だから私は彼女のプランに乗った振りをしたのです。

私は一応文面を見せて貰いました。なるほど竹中を怒らせようとした手紙です。

一応私が竹中に交際を申し込む形になっていますが、ところどころ皮肉を書いています。

それに私のことも暗にけなしているのです。松野はなんて正直なんでしょう!

 


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