紅色ルージュ-1
やっぱり、駄目だったのかもしれない。
「僕はもう君を愛せない」
僕は心の無い野郎だ。
君も判ってるはず。
彼女はずっと、印鑑を握り締めてテーブルを挟んだ僕の目の前に座っている。
ただ、それを押しさえすれば良いだけ。
それだけなのに。
「これしか方法は無いのかな…」
だって、僕には君よりも大事な人が出来てしまった。
君にも気付かれてしまったじゃない。
そんな僕と、それでも尚一緒に居たいと思うのは、人が良すぎるだけ。
もっと責めてくれよ。
もっと泣いてくれよ。
それじゃないと、僕は悪い事なんてしてないと思い込んでしまう。
気付いてた。
僕の浮気がバレた時、君は今までオレンジだったのを紅色のルージュにかえた。
別れたくなかったんだろ?
大人に成りたかったんだろ?
僕を引き留めたかったんだろ?
判ってるんだ、全部。
僕もきっと君と別れたくない。
だけど、君はちゃんと引き留めてくれない。
言葉が欲しかった、
「行かないで」
って言って欲しかった。
叶わないんだね。
「方法?これで全部解決だろう?」
僕は冷たく言い放った。
「…そう、だね…」
彼女は刹那の沈黙の後、震える手で、ルージュの様に真っ赤な印を押した。