第五話-9
「それから、ボクはもうひとつ超能力が使えるんです」
「へぇ」
今さら驚くことはない。ここ最近不思議なことが続いているからな。
「一般的に『テレパシー』と呼ばれていて、こっちは制御できるんですよ」
テレパシー……ようは人の心の声が聞くことができるってわけだな。
「集中すれば聞かないこともできちゃいます。そうしないと、耐えられないですからね」
苦笑する利乃。
人が隠している気持ちを常に聞いていたら、そりゃ耐えられないかもな。『聞きたい声』よりも『聞きたくない声』のほうが多いだろうし。
「安心してください。先輩が腋(わき)フェチだってことは、誰にも言いませんから」
「……お願いします」
後輩に弱味を握られた気がした。
***
翌朝。
俺は本校ではなく、付属の校舎へ来ていた。
「紅葉いる?」
紅葉のクラスメートに、紅葉が登校してきているかを訊いてみた。
「モミリーン。探偵先輩が呼んでるよー」
いつの間にみんな『モミリン』って呼ぶようになったんだ?前からか?記憶がないと不便でしかたない。
「……何」
紅葉が少々ふて腐れた面持ちでこちらにやってきた。
「昨日は悪かったな。ちょっと紅葉をからかってやろうかと思って」
「別に……」
「俺たちは幼馴染みで、親友だもんな」
そう言って紅葉の顔色を窺う。
「……キモ」
「お前その言葉好きな」
昨日も言われたよな。口癖なのか?
「用は、それだけ……?」
「ああ。時間とらせて悪かったな」
「……うん」
紅葉は自分の席へと戻っていった。
それを見送ってから振り返ると、いつの間にか俺のすぐ横に利乃が立っていた。
「よかったんですか?記憶のこと、言わなくて」
「お前がそれを言うかね」
俺は結局、紅葉に関する記憶を取り戻していない。
利乃曰く、超能力で失ったモノはこれまでどおり『想いなおす』ことでしか取り戻せないのだとか。
「だってボク、独占欲が強いですもん」
利乃は俺に紅葉の記憶を取り戻してほしくないらしく、想いなおしてはくれなかった。
「でも安心してください。二度も同じモノを失わせたことはないので、これからのモミリンとの記憶は消えませんよ」
「消えたら困る」
そんなしょっちゅう記憶を消されてたまるかっての。
「今日から『ナクシモノ』探し、頑張ろうな」
「はい!」
第五話〜紅葉の記憶を失った少年〜
【終】