第五話-7
「もう寝たのかな」
時刻は23時を回っている。眠っていてもおかしくはない。
「うーん……うおっ」
どうしたものかと考えていると、ズボンのポケットに入れているケータイがバイブレーションにより揺れた。
「なんだ?」
確認すると画面には『メール受信1件』と表示されている。
差出人は――雲木利乃。俺の後輩で、この部屋にいるはずの少女。
メールの内容はただ一言で『開いていますよ』だった。
入ってもいいってことだと解釈し、ドアノブを回して扉を開く。
部屋の中は暗く、明かりをつけようと赤いランプがついたスイッチを押してみたが、電気代を払っていないのか単にブレーカーを落としているだけなのか、明かりはつかなかった。
「利乃、いるのか?」
靴を脱ぐ。
短い廊下を歩き、扉を開くと小さな部屋へと出た。
「あっ」
そこに、いた。
「利乃……?」
月明かりに照れされて、狐の仮面をかぶっている人物が。
「利乃、だよな……?」
たしか前に一条さんが言っていた。利乃もお姉さんの亡き彼氏と同じ、狐の仮面を持っていたと。
「どうしたんだよ、そんな面なんてつけて」
利乃は仮面に手を添え、ゆっくりとそれを外した。
・・・・・・
「はじめまして」
利乃の姿をしたそいつは、そんなことを言った。
「おいおいなんの冗談だ?」
「僕は雲木利乃の中にいるもう一人の人間です。名前は……言っても問題ないかな。日野宮時雨(ひのみや・しぐれ)って言います」
利乃の中?もう一人?いわゆる二重人格ってやつだろうか。
「簡単に説明すれば、そういうことになります」
「うん?」
もしかして俺、口に出してた?
「小倉紅葉……利乃で言うところのモミリンについて、聞きにきたんですよね?」
「あ、ああ」
なんでもお見通しって感じだな。ってことはやっぱり……。
「はい。僕があなたの『モミリンに関する記憶』を消しました」
利乃、いや時雨だったか。時雨は素直にそう白状した。
「俺は紅葉ちゃん……紅葉の記憶を取り戻したい」
ただの幼馴染みなのか。それとも友達か、親友か、あるいは恋人なのかは憶えていないけれど、あのアルバムの写真を見る限り、大切な存在であることは間違いない。
「それは僕ではなく、ボクに言ってください」
「は?」
何をわけのわからないことを言ってるんだ。