第四話-1
12月になり、肌寒くなってきたなぁとか考えながらバイト先から帰宅している途中。
「神代先輩!」
突然後ろから声をかけられた。
振り返ってみると北斗学園の制服を着た男子生徒の姿。
「じ、自分、本校1年の蝦夷松丸緒(えぞまつ・まるお)って言います。友人からはマルと呼ばれてるっす」
「あ、ああ、ご丁寧にどうも」
「じ、実は先輩に折り入って頼みたいことがあり、尾行をしていたっす」
「探偵みたいなことするなぁ」
俺が関心するのもおかしな話だが。
マルは鞄の中をがさごそと漁りつつ。
「新聞部のサイトに先輩のことが書いてあり、もしかしたら自分が失ったモノを取り戻せるかもしれない、なんて思ったっす!」
うわぁ、またしてもそういう系ですか。神様頑張りすぎ。
「それで、蝦夷丸は何をなくしたの?」
「マルでいいっす。というか蝦夷松っす」
「あーはいはいマルね」
バイト帰りで疲れていたので、適当に相槌を打っておくことにした。
「あ、あった」
マルはそう言い、鞄の中からグラビア誌を取り出した。
「じ、自分が失ったのは、恥ずかしいんすけど、女体への興味……つまり、性欲なんす」
「…………」
俺は頭を抱えた。
視力、ヘソ、髪の毛ときて次は性欲ですか。
「これ、自分がお気に入りのグラドルなんすけど」
マルはページをめくり、ピンクの下着をつけているだけのロリ顔グラビアアイドルのページを俺に見せてきた。
「前はすっげぇ興奮したのに、今は全然なんすよね……だから先輩、自分の性欲を取り戻してくださいっす」
「断る」
「即答っすか!?」
阿呆らしい。誰が好き好んで、後輩男子の性欲を取り戻すかっての。
「あのなぁ、そういうのは医者に診てもらえよ」
「い、イヤっすよ!女の人だったら恥ずかしいじゃないっすか!」
「そりゃそうかもしんないけど」
だからって俺に頼むことはないだろう。
「先輩は、週に何回ぐらいヌキますか!?」
「いきなり何訊いてんのお前?」
こいつ馬鹿だろ。阿呆で馬鹿だろ。
「自分、もう一ヶ月もヌイてないんすよ……我慢してるわけでもないんすよ?」
「…………」
阿呆らしい。とても阿呆らしい。
けれど俺は探偵で、目の前にいるマルは凄く困っているように見える。
「はぁ」
俺はため息をついた。
「わかった。なんとかしてみる」