好きって言いたくない-1
しとしと降っていたいた雨は、いつの間にか土砂降りになっていて。
私はそれを学校の窓から見ていた。
銀の糸みたいだった雨は、いつの間にか滝のように降り注いで、コンクリートを覆っていた。
絶える事なく波紋が広がって、ごうごうと排水口に吸い込まれていくんだけど多すぎて全然減らない。
全然減らないの。
傘を忘れた私はもう一時間は足留めを喰らってる。
玄関。そうメールがきて、私は階段を降りていった。
「マキ、はい傘」
そう言って彼は微笑んだ。
フワフワの茶色い髪が、雨に濡れて幾分落ち着いてる。
そしてピンクの透明なビニール傘を、私に差し出した。
「来てくれなくてもいいのに」
うつむいて言うと、頭上で彼が笑った気がした。
「行くよ?」
そう言って、私の手を握って歩きだす。
繋いだ手が濡れない様に、傘を近付けて歩きだす。
それでもやっぱり濡れて。
髪は水を含んで広がって、制服は少し重くなる。
水がしっとりと、私を包んでいるみたい。
「凄い降りだよなぁ。」
貴方が私を好きだと思う気持ちが、手を伝って流れてくるみたい。
手から伝らなかった持て余した気持ちが、水を伝って私にジワジワ染み込んでくる。
ねぇ、知らないでしょ。
私がその手にどれだけ癒されてるか。
「早く帰らないと、風邪ひくぞ。ほら」
振り替えって、そう言いながら笑う。
二つの茶色い瞳。
ほわ〜って。春が来たみたいに柔らかくわらうの。
貴方のその茶色い髪が、地毛だって知ってるよ。
どんなに私の我が儘で夜遅くなっても、その後ずっと勉強してることを、知ってるよ。
そのせいで徹夜になって、疲れてるのに、私に笑顔を見せてくれる事も。
私といるから、悪く言われてごめんね。
髪の色も、眠そうな事も。
みんな私との悪口に使われてる事も知ってるの。
でも手放せない。暖かいの。
でも好きとは言えない。
男の人って、別れたくなったとき、相手が自分に未練があると知ると、振りやすいんでしょう?
今は好きでいてくれてるけど。
十分過ぎるくらい凄く伝わるけど。
でもそれは、永遠じゃないから。
弱味は見せられない。
私も貴方が好きだって、気付かれたくない。
気付かれてるかもしれないけど、それ以上の決定打を自分から言いたくないの。
好きなのに、好きじゃないフリ。
天邪鬼な私。可愛くないよね…。