第三話-9
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翌日の放課後。
俺は瑞希と共に、一条の自宅を訪れた。
「それで、話って……?」
ぼんやりしながら訊いてくる一条。
「ああ。一条の髪、取り戻せるかもしれないんだ」
そう言って瑞希に目配せをする。
「『髪は女の命だ』って、よく言いますよね」
「そうね……」
「でも、私はそうは思わないんです。髪なんかなくたって、女の子は可愛くなれると思っています」
瑞希は一旦言葉を切り、頭をぶんぶんと振る。
「そうではなくてですね、髪の毛がなくなったぐらいで、私は楓さんの友達をやめないということを伝えたかったんです」
「ありがとう、わかってる……」
「それで、そのことを強く想ったことがあるんです」
一条は不思議そうな表情を浮かべる。
「だから……?」
「だからですね、」
瑞希の言葉を腕で制し、俺が引き継ぐ。
「瑞希のその想いに神様……超能力者が応えたんだ」
「日向さんから、ヘソを奪った人……?」
「ああそうだ。一条の髪は、瑞希の想いに応えた超能力者が消したんだ」
皆一様に黙り込む。
しばらくして口を開いたのは、一条だった。
「……それで、どうすれば私の髪は戻ってくるの……?」
「簡単だ。瑞希が望めばいい」
今回の件でわかったことがある。
雲木が言っていた。超能力者は『愛情』に応えて望んだモノを消すことができるのだと。
消しても今までのように取り戻せるのは何故か。俺は『それを望むから』だと考えていたが、それは少し違う。
戻ってきてほしいと望む際に『愛情』がなければ、恐らく取り戻せないのだろう。
「私が、望む……」
瑞希は両手を合わせ、祈るようにその手を胸にもってきた。
「楓さんに髪がなくても、やはり友達だと思えました。ですからどうか、楓さんの髪を、返してください……」
「あっ」
一条が何かを感じたのか帽子を脱ぐ、と同時に長い髪の毛が現れた。生えてきたのではなく、ワープでもしてきたかのように突然現れたのだ。
「戻った……」
自分の頭を触り、髪の毛があることを何度も確認する一条。
「戻ってる……戻ってるよ、瑞希!」
「はい!よかった……ごめんなさい」
「気にしてないよ。むしろ嬉しい。私のこと笑わないでいてくれて、見捨てないでいてくれて、ありがとう」