第二話-11
「ヘソ、どうするの……?」
「唐突だな。ま、腹をくくって鬼さんに会ってくるさ」
「その必要はない」
突然の声に部室の入口を見ると、強面の男子生徒――鬼の風紀委員長こと天之川桔梗がそこに立っていた。
「げっ」
「昨日、無断でパソコン室に入ったらしいな」
そういえばパソコン部以外は使っちゃダメとか雲木が言ってたっけ。
「そ、そんなことより質問させてくれ!」
「そんなこと……?貴様は校則を破ったのだぞ?」
「あ、あとでお叱りは受けますよ」
「本当だな?」
俺は上下に激しく首を振る。
「そうか。ちなみに質問というのは?」
「日向ひなたのことだ」
「っ……」
天之川は途端に顔面を紅潮させる。須藤の情報が間違っていない証拠だ。
「日向が、どうした……」
「ヘソについて……」
「ヘソ?」
「いや……」
俺は奇妙な違和感を覚えた。だがそれが何なのか、よくわからない。
「……なるほど」
俺の背後で紅葉が何事かを納得する。
「天之川先輩は、ヘソフェチ……?」
「は?なぜ俺がそんなことを言わなければならない?」
「紅葉、何かわかったのか?」
振り返って訊ねてみる。
「うん……天之川先輩が、過去に、日向先輩を苛めていたのは、なぜ……?」
PCのモニターを見つめマウスを操作しながら、紅葉が訊いてくる。
「なぜってそりゃ、何か気にくわないことでもあったんだろ?」
「違う……小学生の男子が、好きな女子を苛めるのと同じ……」
「はぁ?天之川が日向さんのことをイジメていたのは、好意の裏返しだって言うのか?」
こくりと頷く紅葉。
「だそうですが」
天之川に向き直ると、彼はうずくまって顔を隠していた。
「お、俺が誰を好きになろうと、俺の勝手だろうが……」
「なっ、え……?」
紅葉の言うとおり、天之川は日向さんのことが好きだった……?
じゃあ、イジメていたのは好きの裏返し……くそ。須藤のやつ、中途半端な情報を寄越しやがって。
だがそれなら合点がいく。紅葉がヘソフェチなのかを訊いた理由も、なんとなくだが想像がつく。
「日向さんは、ヘソをなくした」