思いがけない見舞い客-2
連絡もしていない奥様がこの病室に急に現れた理由はわかったが、何故奥様がこの病院に来たのか、それが気になった。
「実は母の具合がよろしくなくて。お庭の手入れが終わった後からここにお世話になっておりますの」
「そうだったのですか、それはご心配ですね。何をおいても一番に駆けつけなければならないのに。こんなざまで本当に申し訳ありません」
「気になさらないで下さい。今は御自分のお体を一日も早く治していただくのが一番。お体が良くなったら又お庭のお手入れお願いいたしますね」
それからのひと時は陸にとって至福の時間であった。とりとめの無い事からお互いの身の上まで話ははずんだ。翠が陸より三つ程年上である事、春風の家が代々女系家族であり大奥様、翠、更には若奥様の准までもが養子で迎えたご主人を亡くしていることを始めて知った。
至福の時間は瞬く間に過ぎ去る。
「あら、もうこんな時間。母が待っておりますわ。急いでいかなくちゃ。又明日もお寄りしてよろしいかしら」
「勿論です。首を長くして翠さんが来てくれるのを待っています」
「陸さんと楽しいお話が出来ると思うと母のお見舞いにも張りが出るというものです。それでは又明日」
陸のいちもつが取り持つ縁かどうかは知らぬが、いつの間にか互いの呼びかけは涼風様が陸さんに、奥様が翠さんに代わっていた。
翠が病室を去って程なく、椿姉が息せき切ってやってきた。
「今日は銀行の払いがあってすっかり遅くなってしまった。陸、おしっこは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
それ以上椿は聞かなかった。チヨちゃんが世話してくれたと勝手に思い込んでいるようだ。陸も翠の訪問の事は話さなかった。
再びチヨちゃんが現れた。
「あら、お姉さん着替えたのですか?」
「着替えるも何も、今着いたばかりだよ。変な事を言う子だね。あ、そうそう、今日は陸の世話をさせちゃって悪かったね。陸、恥ずかしがらなかったかい?」
「世話といっても・・・」
なんだか二人の会話が噛み合わない。陸もちょっと不思議な気分であった。