VS桃子-2
やっといつものペースに戻せた俺は、ニヤニヤしながら
「夏風邪はバカしかひかないって……」
と、皮肉を言いかけた。
「言うと思った」
石澤はジロリとそんな俺を睨みながら、タオルケットを口元まで引き上げ、それを遮る。
俺は笑いながら、宥めるように石澤の髪を撫でた。
時折手が顔に触れるが、やはり熱い。
「バカでもいいけど、あんまり心配かけんなよ」
「うん、ごめんね」
ほんの少しの毒を吐いたにも関わらず、石澤はそう言って弱々しく微笑んだ。
いつもなら負けじと文句を言い返すのに、やけに素直な彼女に少し調子が狂った。
でも、たまにはこんな風に優しい気持ちになるのも悪くない。
なんとなく、お互いがほのぼのとした気持ちになれたような気がして、自然と顔がにやけてくる。
いつものようにバカをやらずとも、一言二言言葉を交わし微笑み合うだけで、こんなに幸せな気持ちになれるとは、新発見だ。
しかし突然、俺の携帯がズボンのポケットで震え出して、ほんわかとした空間を一気にぶち壊した。
俺は小さく舌打ちしてから携帯を開いた。
倫平の名前が表示されていた画面を見て、明日は朝イチで倫平の奴をひっぱたいてやることに決めた。
「……はい」
『あー、修? まだ桃子んち?』
声の主は倫平ではなく沙織で、どこか店の中にいるらしく、ザワザワと後ろが騒がしかった。
「そうだけど、なんだよ」
さすがに沙織が相手では、ひっぱたくことなんて恐ろしくてできない。
ささやかな反抗として、少し声のトーンを下げて不機嫌そうに答えてみた。
だが、彼女は一向に気にしてないようで、
『あたし、桃子から英語のノート返してもらうのすっかり忘れちゃってさあ。
修が帰るときに代わりにノート受け取ってよ。
あたしたち、駅前のマックでお茶してるからね』
と笑いながら一方的に自分の用件を伝え、プツンと電話を切った。
キョトンとした顔をこちらに向けている石澤に、
「……沙織が、英語のノートをマックまで持って来いだとよ」
と、面倒くさそうに説明した。
俺は盛大にため息をついた。
「パシリ?」
石澤がプッと笑う。
的を射た表現に悔しくなった俺は、デコピンで反撃してやるつもりだったが、石澤の額はあいにく冷却シートでガードされている。
はあ、と小さく息をついて、
「大体お前が風邪ひいて学校休んだりしなければ、こんな面倒くさいことしなくても良かったんだよ」
と睨むと、石澤は申し訳なさそうに目を伏せ、
「……ごめん」
と謝った。