選択-12
「ボケっとすんな!!」
カリーの首の後ろを掴んだスランが、そのままカリーをエンに投げた。
「わたたたたっ」
『ククッ』
飛んで来るカリーを受け止めるべく移動したエンよりも先に、巨大化したクインが彼女を空中で掬い上げるように受け止めて背中に乗せる。
「スラン!」
クインの背中で振り向いたカリーの目に映ったのは、水の触手がスランの腕に絡みつき締め上げている場面。
「ぐっ」
「ごめん!熱いよ!」
先に謝ったエンが右手で印を結び、短い呪文を唱えた。
「蒸!!」
ジュワッ
「ぅあちっ!」
魔法発動と共にスランに絡まっていた水の触手が音をたてて蒸発する。
熱いと宣言されたが、直接触れているモノが蒸発したら当然のごとく熱すぎてスランは悲鳴をあげた。
しかし、熱い思いをしただけの事はあった。
水蒸気となった触手から逃れる事が出来たスランは、空中でクルッと回転して地面に着地する。
「あっつう〜火傷したっ」
スランは着地と同時に走り、エンの後ろに隠れて火傷を負った腕に息を吹きかけた。
「大丈夫〜?」
「軽傷、軽傷。さんきゅ」
やり方は乱暴だが、躊躇せずに魔法をかけてくれたおかげで逃げられた。
もし、あそこでエンが少しでも迷っていたら今頃スランは水晶の中だ。
「つうか、手遅れだったか?」
それよりもゼインはどうなったんだ、とスランは改めて水晶に目を向ける。
「ゼイン!!」
空中を泳ぐクインの上からカリーが呼びかけていた。
水晶の中のゼインはゆっくりと歩いて前に進み、内側から手を伸ばして水晶の壁を押す。
カリーが叩いてもびくともしなかった水晶の壁は、薄い膜で出来ているかのようにゼインの手に押されてみよんと伸びた。
それが、限界まで伸びるとパチュンと音をたてて水晶が弾ける。
バシャッ
ゼインは流れ出る水晶の中の液体をものともせずに、蕾の形にとどまっている根の中に立っていた。
「……ゼ……」
小さく声を上げたカリーを、乳白色の視線が捉える。
「……赤い眼……君がカリオペですね」
ゼインはいつもの声で、いつもと違う口調でカリーに話かけた。
それを聞いたカリーはスッと目を細めてゼイン=ザルスを見据える。