死の国V-1
「・・・アレスいない」
「アレス?」
眠る前にアレスを探したことなどなかったアオイから予想外の名前がでてキュリオは面食らった顔をしている。
「アレスは帰りが遅くなるかもしれないから、アオイは待ってなくていいんだよ?」
だが、キュリオの言葉にアオイは頷かなかった。絵本に目を落とし、そこから動こうとしない。
と、そこへカイが通りがかった。
「キュリオ様いかがなさいましたか?」
カイは不思議そうにキュリオとアオイの顔を見比べて尋ねた。アオイは特にいつもならば眠っている時分だが、その姿勢さえ見えずにカイは首を傾げている。
「アオイはアレスの事が気になるようなんだ。なんだか今夜は目も冴えてるみたいでね・・・」
困ったように小さな娘を見つめるキュリオの瞳は父親の目そのものだった。嫌がるアオイを無理矢理寝かしつけるのも可哀想な気がして、キュリオは動けずにいた。
――――・・・・
アレスがマダラの一撃に構える暇もなく、巨大な鎌はアレスの白い首の肉を深く切裂いた・・・・
はずだった。
パァッン!!
―――・・・一瞬の出来事だった。
柔らかな光がアレスの足元に広がり、見たことのない結界の印が彼を包んでいる。マダラの鎌は弾かれて、体勢を崩したマダラも驚きの表情を見せている。
「・・・今のはなんだ・・・?」
(この鎌の一撃に耐えた結界・・・キュリオ殿のものか?いや・・・見たことのない結界の印だった・・・)
マダラ以上に驚いているアレスの表情を見ても、彼の意志とは無関係の力が発動したものだと考えられる。
「一体何が・・・今の結界は・・・・」
戸惑いに後ずさったアレスだが、耳に届いたマダラの小さなため息で我に返った。
「おもしろい事をする・・・
約束は約束だ。話を聞いてやろう」
巨大な鎌を消したのを合図かのように、扉の向こうから彼の従者たちがアレスに茶の用意をしはじめる。席に座るよう促され、アレスはマダラの向かい側に腰をおろした。
ようやくマダラに客人として認められたアレスが口を開き始める頃、悠久の城はただならぬ緊張感に包まれていた・・・。