死の国U-1
(悠久の導師の役目・・・主である王を補佐し、王と民のためにその力を使う。王の愛する民を守るため・・・キュリオ様が愛してやまないアオイ様を守るためにも・・・私が出来ることをやらなくては)
扉の前にたたずむアレスは低い地鳴りのような音に顔をあげた。冷たい霧が足元をすくうように流れていく。足を踏み出したアレスの身を、ゾクリとするような気配が通り抜けた。
視線だけを動かしてまわりを見渡しても、人の姿はおろか星や月さえも見当たらない。
(やはり死の国は別のものと考えたほうがよさそうだ・・・)
濃い霧の中をすすむと、大きな城がおぼろげに見えてきた。王の住まう城でさえ悠久とは異なり、暗く巨大な闇に包まれているような異様な雰囲気を纏っている。
「・・・・なっ!!」
そんなことを考えながら歩いていたアレスの足元に魔法陣が浮かび上がり・・・一瞬、気付くのが遅れた彼は妖しく光る陣へと吸い込まれていった・・・
―――――・・・
陣を抜けると徐々に露わになった視界の端に・・・巨大な鎌を手にした冥界の王・マダラの姿がそこにあった。
「悠久のアレス・・・キュリオ殿の使いで来たわけではないのなら・・・」
音もなく立ちあがったマダラの瞳が鋭くアレスを見据えた。その口元には冷たい笑みを浮かべている。
「条件はただひとつ・・・」
「・・・・っ!!」
マダラのゆったりとした動きが何重にもかさなって見えたかと思うと、ギラリと光マダラの鎌が目のも止まらぬ速さでアレスに襲いかかった―――・・・
―――――・・・
その頃キュリオの足元で絵本をめくっていたアオイは、時折キュリオを見上げて目が合うと頬を染めて屈託のない笑顔を向けている。
そんなアオイをみて優しい微笑みをみせるキュリオはとても幸せそうだ。そして、何度かそれを繰り返していたキュリオは・・・
「アオイ、そろそろおやすみしようか」
席から立ち上がったキュリオが葵の小さな体を抱きしめようとすると・・・
アオイはきょろきょろと辺りを見回して何かを探している様子をみせた。
「ん?何か気になることがあるのかな?」
膝をついてキュリオはアオイの顔を覗きこむが、彼女の口から出たのは意外な言葉だった。