ある夏に吹いた風-9
そして、兄ちゃんがいる人にカスミさんとSEXをしたと言う話しを聞かされた人がいた
俺の兄ちゃんは、カスミさんを想う俺がいたたまれなかったのか、それともお母さんにばれるのが怖かったのか、話しを聞いたことは無かった
これから俺は大人になって兄ちゃんと酒の席で、カスミさんとSEXをした話が出てきたらきっと誇らしげに話すのだろう
「俺はカスミさんと生でSEXしていた」ことを
そして兄ちゃんは法螺話と頷きながら聞き流すのだろう
カスミさんがこの土地を去ってから、俺は高校を卒業したらカスミさんを探す旅に出ようと考えていた
しかし、「私、SEXが好きなんだ。いろんな人とするのが好きなんだ」という言葉を思い出す
もし、カスミさんと会えたら、俺はカスミさんを独占するのか?
それではカスミさんを縛ってしまうことになる
それではあのカスミさんではなくなってしまうのでは?
そんな自問自答を繰り返し、得た結論は
きっといつか会える。その時、笑顔であの日のことを語り合おう
と
あの人は、あの夏にこの村を吹きぬけた風
風は新しい空気を運び、澱んだ空気を押し流す
俺はあの風に、木の葉のように吹き飛ばされて恋をした
風は追いかけても追いつけない
ならば待つ
いつか再び吹き抜けて舞い上げられるその時を
―完―