非売品ストロベリー *性描写-5
吐き出し終わったモノを引き抜かれ、まだ荒い呼吸を整えていると、再び胸元に唇が落ちた。
敏感になったままの先端を吸われ、ビクンと身体が跳ねる。
「あっ!ミスカ!?」
「全然足りない。依頼受けてからずっと、禁欲してたんだからな」
「ですが…んんぁ!」
証明するように、また質量を増したものが女陰の表面をこすりあげ、思わず喘ぎ声が零れた。
「ん……ミスカも依頼主さまと、しっかり遊んでいたではありませんか」
依頼人の屋敷で、二人して姿を消したと思ったら、隣室の扉越しにミスカの声と女商人の喘ぎ声が聞こえたのだから。
顔をあげたミスカが、いっそうニヤニヤと悪い笑顔を浮べる。
「くっく、やっぱ妬いてたんだな。早く言えよ」
「妬いていなくとも、あからさますぎて気付きます!」
「あからさまにヤってるフリだったのに、気付かなかっただろ」
「……え?」
あの時は腹立たしくて、すぐ立ち去ってしまったが、よくよく回想すれば、大きな漏れ声のわりに、他の物音は聞えなかった気もする。
「エリアスがいかに頑固か話したら、面白そうだって協力してくれたんだよ。けど流石に、当て馬目的の男と寝る気はないってさ」
あっけらかんと告白され、開いた口が塞がらない。
「だ、騙しましたね!ミスカ、だいっ……」
おさだまりのセリフが最後まで飛び出す寸前、抱き締められて唇を塞がれた。
唇を優しく舐められ、ちゅっと何度も軽く吸われる。
とびきり甘やかすようなキスに、エリアスの身体が硬直する。
「〜〜っ」
「ん?続きは?」
ミスカがニヤニヤ笑いながら、指先で唇をなぞり催促した。
もう片腕でしっかり抱き締められ、逃げ場のないまま、エリアスはハクハク口を動かす。
「だい……きら……い……というほどでも、ありません……」
「……頑固者」
ミスカは顔をしかめたが、目がしっかり笑っている。
「大好きって、素直に言っちまえばいいのに」
「自惚れないでください。今度こそもう絶対、妬いたりなどしませんよ」
両腕を伸ばし、真っ赤な顔をミスカの首筋に押し付けて隠した。
「ですが……キスだけは、他の誰ともしないでください……」
「はいはい。ヤキモチで泣いちまうもんな」
「涙腺がおかしくなるだけです!」
言い返した途端、またペロリと唇を舐められた。
「エリアスの唇、苺みたいに真っ赤だな」
ミスカがとても美味しいものを味見したように目を細める。
(あ……)
不意に、初めてミスカに抱かれ、口づけられた時のことが、閃光のように蘇る。
そして、口づけ一つに、どうしてあんなにも動揺してしまったか、ようやく理解できた。
***
海底城で造られた者たちは、その過程でさまざまな知識を埋め込まれる。
だからたまに、埋め込まれた知識と、自分が体験した事を混同してしまうのだ。
性玩具として主たちに仕えていても、唇をあわせキスをされたのは、ミスカに抱かれた日が初めてだった。
性感のないエリアスは、無機質でつまらない人形も同然と、愛情表現を期待するものなどいなかったから。
そしてアレシュに仕えている頃、地上で情報を集めるため、女体へ戻り相手を篭絡した事は数え切れない。
そんな時、いつもエリアスは仮面を被って正体を隠し、男と寝るのを心から喜べる淫らな女を演じていた。
殆どの相手が喜び、偽りの女へ夢中になってくれた。
仮面の女を喜ばそうと愛撫を施す者も、また会ってくれと懇願する者もいた。
……けれど、あぁ、そうだ。
身体中を貪られながらも、いつだってキスだけは無意識に避けていた。
エリアスがキスをした相手は、未だにミスカだけだ。
とはいえ、絶対に言ってやる気などない。
……どうせとっくにバレているのだから。
(宗旨変えですね……)
深くなっていく口づけに酔いながら、蕩けていく脳裏の片隅で呟く。
まったく、人工的に与えられた知識というのは厄介だ。
自分自身のことなのに、今更気付いたのだから。
身体は売っても唇は許さない、など不思議だとのたまっておきながら、エリアス自身が、ずっと無言でこう主張していた。
クリームもスポンジもお好きなように。
ですが、苺はミスカだけのものです。
終