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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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非売品ストロベリー *性描写-2

 ***

 現在エリアスとミスカは、とある都市に滞在していた。
 傭兵は、戦や用心棒として雇われるだけではない。
 人々は、自分達の手に余るさまざまな用件を斡旋所にそれを持ち込み、引き受けてくれる者を探すのだ。
 手に入りにくい品物の入手や、危険な地域の荷運びなど、実にさまざまな仕事が存在する。

 辺境での野盗退治は、二人にうってつけの仕事だった。
 しかしミスカの凄まじい強さが大評判となり、瞬く間に噂が広まってしまった。
 海底城から追われる身としては、非常に好ましくない。
 しばらく大人しくしていようと、一時的に大きな都市へ隠れ住むことにしたのだ。


 ストシェーダ王都にはひけをとるが、そこそこ賑わう都市だけあり、いくつかある傭兵向けの斡旋所も規模が大きい。
 まっとうな依頼もさながら、表沙汰にできない裏依頼も多数ある。

「やはり、こんな類しかございませんか……」

 裏依頼を扱う斡旋所で、分厚いファイルをめくったエリアスは、カウンターで溜め息をつく。
 なるべくひっそりと生きたいのなら、裏依頼をこなすのが妥当だが、当然ながら殆どが犯罪依頼だ。
 たまに、さまざまな事情から内密に処理したい『比較的まともな裏仕事』もあるが、本日は見つけられそうも無かった。

「うへぇ……エグイのばっか」

 ミスカも後ろから肩越しに首を突き出し、依頼書を眺めていた。
 腰に長剣を差し、丈の短い上着と細身のズボンに革のブーツという軽装だ。
 胸甲一つつけず、傭兵としては不十分な装備に見えるが、街中では装備を外す傭兵も多いし、そもそもミスカには鎧など必要ない。
 エリアスも同じような軽装だったが、辺境で男二人組の傭兵としてすっかり有名になってしまったので、念のため女体になり、衣服だけは身軽な男モノという姿だ。
 中性的な顔立ちでも、今のエリアスは、男装の女だとはっきりわかる体つきになっている。

 店の向こうでは、ここの常連らしい傭兵たちが、好奇と欲情の目をチラチラ向けていた。
 ミスカがさりげなく睨みを効かせていなければ、とっくに絡まれていただろう。
 やはり女体は鬱陶しいと思うが、良い部分もある。
 用心深い店主が、初見にもかかわらず裏依頼のファイルをあっさり渡してくれたのは、色気たっぷりに頼んだからこそだ。

「よぉ、いいのが見つかったか?」

 さらにファイルをめくっていると、他と話を終えた店主が話しかけてきた。

「残念ながら」

 エリアスは苦笑してファイルを返す。
 世の中を綺麗なものと夢想していなくとも、わざわざ後味の悪い真似はしたくない。
 路銀にはまだ余裕があるし、他を回ろう。

「そうか、こいつはどうだ?」

 店主は真新しい依頼書をカウンターに置いた。

「交渉役の女と、その護衛を探してる。あんたらにぴったりだと思うぜ」

 体格のいい中年店主は、いささか人の悪い笑みを浮かべ、エリアスを眺めた。

「あんたはツラもいいし、頭の回転も良さそうだ。それに、色事にも慣れてそうだと思ってな。こいつは俺の勘だが……ひょっとして元は娼婦か?」

「そのようなものでした」

 しれっと無感情にエリアスは答える。性玩具は確かに無料の娼婦だろう。

「今は違う」

 反して険悪な視線を浮べたのは、ミスカだった。
 金色の瞳に殺意を読み取り、店主はあわてて手を振る。

「悪くとらんでくれよ。相手の適正を直感で見抜けてこそ、斡旋業者としちゃ一流ってだけだ」

「なるほど……」

 エリアスは差し出された依頼書を手に取り、じっくり読む。
 店同士の契約を有利に進めるよう、相手の責任者へ内密に交渉して欲しいという依頼だった。
 真正直ともいえないが、他の依頼に比べれば、はるかにまともだろう。

「エリアス、そんな依頼やめろよ」

 ミスカが依頼書をひょいと取り上げる。

「ようは、相手と寝て堕とせって意味だろ」

「だからこそ、わたくしが適役と思われたのでしょう?」

 この依頼は、まさしくエリアスの得意分野。寝台の中でなら、どんな要求でも飲ませる自信がある。
 豪語した通り、この店主は適正を見る直感に優れているようだ。
 だが、向いているのは確かでも、気は進まない。
 やはり断ろうと思ったが……。

「……ふぅん」

 ミスカの声が三段階ほど低くなる。

「エリアスは寛大だな。すぐ妬いちまう俺とは大違いだ」

 どうやら乗り気だと誤解させてしまったらしいが、皮肉混じりのセリフに、今度はエリアスのほうがカチンときた。

「今さら気にする事でもございませんでしょう」

 つい、声も口調もトゲトゲしくなる。
 エリアスにとってセックスは楽しむものではなく、苦痛を伴っても相手を篭絡できる武器だ。
 だいたい、性玩具だったエリアスの姿を、散々見ているクセに。
 エリアスに快楽を植えつけられるのは、悔しい事にミスカだけだと、知っているクセに。

 剣呑な視線を向けるミスカから、依頼書を取り返した。

「ミスカ、貴方も誰と何をしようと自由です。わたくしは絶対に妬いたりしませんので」

「じゃ、俺がこれから他の女を抱いてもいいわけだ」

「必要とあらば、お好きにどうぞ」

  冷たく返答し、店主に依頼書を差し出す。

「こちらを引き受けます」

 ついさっきまで断ろうと決心していたのに、意地でもヤル気になってしまった。

「おいおい、揉めてるみてーだが、やるならきっちりこなしてくれよ?」

 困惑顔の店主に、ミスカが顔をしかめたまま唸る。

「心配しなくても、相手は確実に骨抜きだ」

 二人がつまらないケンカを始めたのは、そんないきさつだった。




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