導師・アレスV-1
キュリオを探してしばらく歩くと、廊下の向こう側から彼が歩いてくるのが見えた。流れるような動作で優雅さと品を兼ね備えたこの王は、どことなく憂いを秘めた表情をしている。
「キュリオ様!」
名を呼ばれてふたりに気が付いたキュリオがこちらに向かって歩いてきた。
「アレス、どこへ行く」
アレスの正装にキュリオが訝しげな顔をする。無理もない、すでに日は暮れていて・・・急ぎの職務などもないはずだ。
「・・・少し思うところがありまして、これから発とうと思っています」
「アオイのことではあるまいな」
「・・・・」
何も言おうとしないアレスのそれが、すべてを物語っている。真面目なアレスがひとつの問題をうやむやにできない性格であることはキュリオもよくわかっている。
「アオイの事は・・・まだわからないことがたくさんある。それに、自己治癒が出来なくとも私が傍にいればよい話だ」
「・・・先生は、
アオイ様が何かの契約上、その力を制限されているのではないかとおっしゃっていました。あるいは・・・運命的なものだと」
「運命的なもの・・・」
キュリオの脳裏にディスタが残した記述の内容がよぎった。
(自己を犠牲にした大いなる慈悲・・・枷の外れぬ輪廻の王・・・・)
「・・・その話はするな。
何かあったとしても私の娘であることは変わりない。彼女はこの悠久に生まれ、悠久とともに生きるのだ。・・・もし何かを背負って生まれたのならば・・・全て私が引き受けよう」
「・・・キュリオ様」
不安げな表情をみせるカイとは逆に、有無を言わせない厳しい顔を向けるキュリオ。
「・・・・・」
すると、アレスは何も言わず深く一礼すると身を翻して闇の中へと消えて行った。
「・・・いかがたしましょうかキュリオ様」
「アオイについては調べて答えが出るほど簡単なことではない。彼女がこれから見せるものが全てだ。カイ、お前はアオイから離れるな。私がいないときはお前がアオイを守れ」
「もちろんです、キュリオ様」
アレスの事を気にしながらも、言われた通りカイはアオイの元へと戻って行った。