導師・アレスT-1
キュリオはかつての王たちが残した膨大な記録を遡っていた。これまでの悠久の歴史を目にすることはキュリオとっても重要なことなのだが、今はアオイのことが関わっているため脇目も振らずページをめくっている。
その時、胸騒ぎのする気になる文字を見つけた。
「これは・・・」
この見事な筆跡の持ち主は、歴代の王の中でも名を残した偉大な王・ディスタのものだ。
「・・・人界の王?」
キュリオが胸騒ぎを覚えたのは、そのあとに続く言葉だった。
「自己を犠牲にした大いなる慈悲・・・
・・・枷の外れぬ輪廻の王・・・・?」
(力の方向性が"慈悲"というのは私と同じものだが・・・"大いなる慈悲"とは何を示しているのだ・・・?)
そしてその先にある人界の王の名らしき文字を指でなぞった。
(『葵』?このような字は見たことがないな・・・人界という世界の言葉か?)
・・・この時、キュリオの胸騒ぎは的を得ていたが・・・人界の文字を読めるわけがなく、人界の王の記述は記憶の片隅に追いやられることとなる。
「人界の王か・・・
別世界の話であるならば、またの機会に目を通すとしよう・・・」
若干の胸騒ぎは拭えぬものの、アオイが人界の王と関係があるわけがないと判断したキュリオはディスタの記録を静かに閉じた。
「自己を犠牲にした大いなる慈悲・・・
まさか・・・、な」
あたりに人の気配はなく、ただキュリオの不安げなため息だけが小さく響いた。
―――――・・・
「・・・キュリオ様は何か手がかりを見つけられただろうか」
アレスは手元を見つめると、ぼんやりと癒しの光を集めてみた。内側からあふれ出る淡い光はキュリオには到底及ばぬものの、天才と呼ばれたアレスの力はたくさんの人々の助けとなっている。万が一の時、この力さえあれば戦うことは出来なくとも命を落とすことはないのだ。
(己の身をかえりみず・・・他者を守ることのみに特化した能力・・・・)
「アオイ様は何か途方もないものを背負ってお生まれになったのかもしれない・・・」
(冥界の王マダラ様・・・か・・・・)
「アオイ様はもしかしたら・・・なにか途方もないものを背負ってお生まれになったのかもしれないな・・・」