生まれ持ったものV-1
「アレスじゃないか、こんなところでどうした?」
入ってきたのは魔導師の中で最高位の大魔導師の称号を与えられた長老だった。現在は現役を引退し、若手を育てることに力を入れている。豊かな白い髭をなでながらアレスの手元を見ると、
「勉強熱心なのは感心だが、お前さんは真面目すぎるところがある・・・ちゃんと息抜きもせねば頭に入るものも入らんぞ?」
「・・・先生、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
アレスは彼を先生と呼んでいる。彼から学ぶべきことはとても多く、世代交代となった今でもアレスはまだ彼に追いつくことは出来ていなかった。
「・・・なんじゃ?お前さんがわからんことをわしが答えられるかどうか・・・」
「癒しの力を持つ者が・・・己の傷を癒せず、他者のみの治癒をなせるという話を聞いたことはありますか?」
「・・・ふむ、そんな者が現れたのか?」
「はい、まだ能力に目覚めたばかりかと思われますが・・・己を治癒すること自体はそれほど難しくないはず・・・なのに、なぜ高等魔導である"他者を癒すこと"のみが可能なのか・・・」
「新しい類の能力者・・・とは言い切れなさそうだのぅ・・・。その者が何かと"契約上"その力を制限されている、というのは考えられんか?」
「契約・・・?彼女はまだ3つの幼子なのですよ?」
「ほぉ、アオイ様と同じくらいの子か・・・契約を結ぶことは不可能に近いか・・・」
「アオイ様なんです」
「・・・なんと・・・それは誠か・・・。
して、キュリオ様はなんとおっしゃっているのだ?」
「やはりご心配なされております。キュリオ様も今頃、過去の記述を調べているのではないかと・・・」
「ふむ・・・
もし、キュリオ様にお覚悟があるのならば・・・冥界の王に覗いてもらうのも一つの方法だろう」
「・・・冥界の王に?」
アレスが戸惑ったように師の顔を見つめた。それもそのはず、キュリオが冥界の王を頼ったことなど一度もなく・・・不仲ではないにしろ、キュリオの返事が「否」であることは目に見えている。
「アオイ様の出生は謎に包まれていると聞いた。その力が遺伝的なものであるか、もしくは・・・彼女が背負っている"運命的なもの"であるか・・・そのくらいはわかるじゃろうな」