小さな力V-1
「カイわるくない!」
アレスが抱いていた聖獣の子をその手から奪うと、まだ覚えたての言葉を並べて懸命にアオイが説明する。
「この子、けがしてたっ!」
「そういうことか・・・悪かったアオイ、カイ・・・」
キュリオはアオイの事となると、見境がなくなるほど心配する。彼の弱点も強みも、すべてこの子にあるのだ。
「キュリオ様、その件について少しお話しが・・・」
アレスはカイへと目配せすると、頷いたカイはアオイの手を引いて別室へと移動した。
首を傾げるアオイにカイは微笑んで口を開いた。
「お召物を変えましょうアオイ様・・・それともこのまま浴場に参りますか?」
「カイ、いっしょにはいろ?」
瞳をきらきらさせてアオイがカイの手を引っ張る。しかし、王や姫と同じ湯に従者たちが浸かることは許されない。
「いえ、俺は・・・」
そんなこんなで押し問答しているふたりをよそに、アレスは先程の出来事をキュリオへ報告していた。
「・・・アオイが癒しの力を?それは本当か?」
「はい、ですが・・・」
喜びの反応を見せたキュリオとは逆にアレスの表情は冴えない。
「アオイ様は特異体質の可能性が。癒しの力を持っているにも関わらず、ご自分の傷は治せないようなのです」
「・・・なに?」
「カイの話によりますと、森であの聖獣の子を見つけた時・・・かなり深い傷があったそうです。その際、絡んでいた針金を解こうとしたアオイ様が手に傷を負った。そしてそのまま私の元へとやってきたのですが・・・傷は見当たらず、傷口があったであろう場所の毛がわずかに抜け落ちていました」
「そしてアオイの手の傷は癒えていなかったということか・・・」
「はい、その通りです」
「聞いたことがないな・・・癒しの力を持つものが自身を治すことが出来ないなど・・・」
「私もです。少し調べてみようと思います」
「ああ、私も古い記録をあたってみよう」
言葉少なげにアレスは報告を済ませると、一礼して部屋を出て行った。
「・・・アオイが特異体質だと・・・?」
喜びもつかの間、眉間にしわを寄せたキュリオ。