小さな力T-1
「アオイ様っ!!
いけません!!俺がやります!!」
カイの言葉にも振り向かず、アオイは必死に手を動かしている。怯えた様子を見せていた聖獣の子は、みるみるうちにぐったりとしていった。傷口からはとめどなく血が溢れだしている。
「・・・っっ」
右手の指を抑えてぎゅっと目をつぶるアオイの手は血だらけで、聖獣の血ともアオイの血ともわからずカイは取り出した布でアオイの指を縛った。
「アオイ様、聖獣の子を連れて城に戻りましょう。アオイ様の手当もしないと」
有無を言わせないカイの瞳は真剣だった。頷いたアオイが聖獣の子を抱きかかえると、さらにその体をカイが抱きしめた。
カイは剣士だ。キュリオのように傷を治すことは出来ない。だが、剣をも扱うキュリオはやはり特別な存在だからなのである。そして王宮に戻れば導師がいる。これくらいの傷ならばキュリオじゃなくても治せるだろうと判断したカイは一目散に王宮の庭を走りぬけた。
「いた・・・!!」
カイの慌てたような声を耳にした青年が足をとめて振り返った。
「・・・カイ、姫様?」
黒髪の不思議な雰囲気をまとった彼は名をアレスという。若いながらも優秀で、魔導師の統率を任されている。
だが、アレスの美しい顔もすぐに真顔に変わり・・・血だらけのアオイの手元を見つめた。
「・・・姫様がお怪我を?」
「ちがう!この子っっ」
アオイが聖獣の子を地面に置くと、カイがナイフで針金を切っていく。だが、先程とは様子の違う聖獣の子にカイは首を傾げている。
「・・・・傷口が」
「どうした?」
アレスがカイの手元を覗くと、赤い瞳の聖獣は目をぱちくりさせて尻尾を振っていた。
「見せてみろ」
よく見ると、傷口があったであろう場所の毛がわずかに抜けている。だが、このへばりついた血の量を見る限り大怪我であったことは間違いなかった。
「・・・一体どういうことだ?」
アレスはカイと顔を見合わせると、その視線は自然とアオイへと向けられた。
「・・・アレス、なおる?」
不安そうにアレスを見つめるアオイは、自分の怪我など忘れているかのように聖獣の子を心配していた。