『由美、翔ける』-6
「で、どうするの?」
「……行くわ」
由美の、意を決した眼差しを見て、“その意気よ”とばかりに、桃子は笑みを浮かべた。
「骨は拾ってあげるから、そのまま告白しちゃえ」
「そ、そこまで、できるわけ、ないじゃない」
お互いまだ、名前さえも交換していないのだ。相手が、“八日市”という姓だという事は、表札を見ることで辛うじて分かったに過ぎない。
「ただ、その、助けてくれたお礼を、きちんと言いたいだけだから……」
「まあ、そこからどうなるかは、相手次第だわね」
それでも桃子は、由美が前向きになっている姿を見て、満足そうな表情になっていた。強気に見えて、もろいところのある由美は、それを克服しなければ、日本代表の選手に選ばれることはないだろうと、彼女は察している。
膝の故障さえなければ、桃子もまた、全国屈指のリベロとして、代表候補選手に選ばれておかしくない実力を持っていた。だから、彼女の“選手の実力”を見る目には、確かなものがある。“コート内の監督”といわれる、リベロで活躍してきた所以だ。
(いまいち飛べない由美を変えるには、“オトコ”ってのもありかも)
この一件が由美にとって、いい機会になることを、コート外の親友としても、真摯に祈る桃子であった。
「………」
桃子との会話が一段落して、23時を越えたところで、二人は就寝のために部屋の電気を落とした。
この、城西女子大学の女子寮は、自主自律の気風があり、消灯時間や門限の制限はない。届けを出しさえすれば、外泊も認められている。もちろん、寮長がいるので、あまりにも羽目を外した行動を取れば、それを叱責され、トイレ掃除を筆頭にした“罰則”を受けることになる。
「ZZzzz……」
二段ベッドの上に桃子がいて、彼女はすぐに寝息を立てており、下にいる由美もまた、まどろみの中に意識を漂わせていた。
「!」
しかし、桃子に相談したことが呼び水となったのか、夜の公園で粗相をしたことから始まる、一連の出来事を夢に見てしまい、すぐにその目を覚ましてしまった。
「……ぅ」
あの時と同じように、下腹に重いものを感じたので、由美は夜具を払うと、桃子を起こさないように足音を忍ばせながら、部屋を出た。
部屋の防音が、かなりしっかりしている寮なので、それぞれのドアから漏れ出る音は、全く聞こえない。廊下は既に人の気配がなく、耳鳴りが聞こえてくるほどの静けさを持っていて、その中を由美は、足音を立てないように歩いていた。
廊下の最奥に、トイレがある。由美は、やはり人気のないそのトイレに足を運ぶと、4つ並んだ個室の一番手前を選択し、そのまま中に入った。
洋式の便座になっているその蓋をあけ、下着ごとパジャマのズボンを膝まで引き下ろすと、座り込んで、下腹の重みになっているものに意識と力を注ぎ、その開放を促す。
「ん……ふ……」
軽い息みの後に、“出口”から質量のあるものが連なって排出され、便器の中の水だまりに落ちて、“ボチャッ”と、特有の水音を発てた。
「はぁ……」
由美はふと、公園でしてしまった“粗相”を思い出してしまう。腹部に襲いかかった猛烈な苦痛に耐えながら、我慢しきれずに野天でぶちまけてしまったあの屈辱を…。
「………」
アンニュイな気分を抱えながら、由美は、水洗のボタンを押し、水だまりに鎮座しているモノを流す。そして、それを出した“出口”の洗浄をするべく、ウォシュレットのパネルを操作した。
シィィィィィ…
「んっ………」
かなり強めの水勢が、“出口”にぶつかっている。
「は、ふ……」
痺れを伴う甘い痛痒感が“出口”から起こって、由美の零す溜息に艶を生み出した。
(あのときから、おしりがおかしくなってる……)
我慢できずに、“野糞”をしてしまったあの屈辱…。しかし、由美は、尻孔を吹き飛ばすような強烈な排泄をしてしまったがため、今でも残っているその感触の記憶に、懊悩とさせられていた。
シィィィィィ…
「ん……く……」
もう既に、十分に汚れは落ちたにも拘らず、ウォシュレットの水洗を止めないのは、その水勢によって、意図的に“出口”を刺激しているからである。トイレには今、誰もいないので、ウォシュレットの水が流れる音が不自然に続いていても、それを咎められることはない。