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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-4

桃子が指摘した由美の“後悔”は、高校三年生の頃に遡る。
「由美先輩!」
 所属している城西女子大学付属高校のバレーボール部は、インターハイでも常連の強豪校で、特に、由美が主将でセッターを務めているこのチームには、高校2年生ながらも、日本代表の若きエースアタッカーとして脚光を浴びている蓬莱桜子もいた。
「あと1勝で、インハイ制覇ですね! 明日の決勝、頑張りましょう!!」
 注目されるプレッシャーもなんのそのとばかりに、活躍を繰り広げる桜子は、その持ち前の明るさも相俟って、まさにチームの“太陽”というべき存在だった。
「桜子」
「? どうしました、由美先輩?」
 しかし由美は、周囲の誰もが気づいていない、桜子のかすかな異常を感じ取っていた。
(桜子、足が痛いんじゃ……)
 スパイクの決定率が変わっていないから、誰も気にかけていないが、いつもに比べて、跳躍力が少し落ちていたし、着地をしたときにかすかに歪むその表情を、由美は見落としていなかった。
「明日に備えて、あたし、もう寝ますね!」
「え、ええ……お休みなさい、桜子」
 だが、桜子自身がそれを切り出さない以上、由美は踏み込むことができなかった。
(それに……)
 城西女子大学付属高校は、“強豪”と呼ばれながら全国制覇を達成したことは一度もなく、日本代表選手でもある蓬莱桜子が、エース・アタッカーを務めている今こそが、最大のチャンスだった。それは、応援に駆けつけているOGたちの激励の多さにも表れている。
(明日が、最後だから……)
 だから由美は、桜子が隠しているであろうその異常について、見ない振りをしてしまった。
 翌日、フルセットまで持ち込まれた試合の最終局面で、それは起こった。
「!!」
 桜子が珍しくジャンプのタイミングを狂わせて、ラインオーバーのミスアタックを打ってしまった後、その着地の瞬間に、ゴムが伸びきって切れてしまう音が聞こえた。
「う、うぁあぁぁぁぁ!」
 普段なら絶対に見せない、苦痛に歪んだ表情で、左足首を抑えてコートの上をのた打ち回る、桜子。
「「「桜子!!」」」
 チームメイトたちが、一斉に彼女の側に駆け寄る中、由美は呆然としたまま立ち尽くしていた。
(わたしが、わたしが、きちんと知らせていれば……!)
 やはり桜子は、左足に異常を抱えていたのだ。それと知っていながら、周囲に伝えることを怠った結果、彼女のアキレス腱は、負担に耐えかねて断裂してしまった。
(わたしのせいだ……!)
 由美は、頭を抱えてコートに蹲ってしまった。
「ゆ、由美!? どうしたの、由美!!」
 エースの桜子だけでなく、主将でセッターを務めている由美までもが、異常な様態を見せている。
「しっかりしなさいよ、由美! どうしたっていうのよ!」
 膝に深刻な故障を抱えながら、必死にリベロを務めてきた桃子に肩を揺すられても、由美は立ち上がることが出来なかった。
(わたしが、わたしが、桜子を……!)
 桜子は、自分のチームのエースだけでなく、日本代表のエースとしても将来を嘱望されていた選手なのだ。それなのに…。
(わたしが、潰してしまった!)
 取り返しのつかないことをしてしまった。その事実が、由美を責め苛み、正気を失わせてしまっていた。業を煮やした桃子に、頬を叩かれても、由美は正気を取り戻せなかった。
 エースとセッターを失ったチームは、結局、試合に敗れ、城西女子大付属高校は悲願を達成できなかった。


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