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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-11


「結果は上々、どころか、特上じゃん」
「それは、そうなんだけれど……」
 助けてくれたお礼を言いに行ったところが、部屋の掃除をして、夕飯の準備までしてきてしまった。ほぼ初対面といってよかった男子を相手に、これ以上のあつかましさはあるだろうかと、寮に帰ってきてから由美は、恥じらいに頭を抱えながら、桃子に顛末の報告をしていた。
「連絡先も、聞けたんでしょ?」
「え、ええ……」
「よかったじゃん」
 同世代の男子の電話番号とアドレスが、由美の持っているスマートフォンに記録されたのは、これが初めてだった。
「八日市クンだっけ。その子、ぜったい、由美に気があるよ」
「そ、そうかしら」
「そうだよ」
 そうでなければ、黙って部屋の掃除を受け入れないだろうし、連絡先を渡したりもしないはずである。
「次の休みのときにも、アパートに行ってあげたら?」
「で、でも、あつかましいって思われないかしら……」
「部屋を掃除して、ゴハンまで作ってあげたんでしょ? いまさらだよ」
 桃子は、由美のためらいに対して、苦笑いを返した。
「来週末は、連休になったんだよね? 何なら、外泊届けも出して、ズッコンバッコンしてきたら?」
「ずっ!?」
 由美の顔が、あっという間に茹で上がる。当然ながら処女の身である彼女は、しかし、シモネタ話に奔放な桃子という親友がいるため、大変な“耳年増”になっているところがあった。
「押し倒されるぐらい、無防備な格好をしたほうがいいかもね。超ミニで、紐パン……いやいや、いっそノーパンにしてったらどう?」
「そ、そんなことはしません!」
 痴女にも程がある、と、由美は憤然としながら、それでも、顔は赤くしていた。
「き、きちんとお部屋を綺麗にしているか、確認だけはしてきます」
「はいはい」
 結局、八日市の部屋に行く気満々だと言っている由美に、桃子は苦笑するばかりだった。
「………」
 桃子の見ている前で、スマートフォンのEメールを操作して、八日市に伺いを立てる由美。メッセージの送信が終わり、すぐに返信が来るかも分からないのに、食い入るようにその画面を見つめている。
(由美、ベタ惚れじゃん。まあ、しゃーないか)
 男に免疫がなかった分、自分の危機を救ってくれたヒーローである八日市に、瞬く間に心を奪われてしまったのは、当然にも思えた。そのうえ、放っておけないぐらいに、ライフ・スキルが著しく欠如しているのを見てしまったから、面倒見の良い由美としては、その“母性本能”も多分にくすぐられたのだろう。
 完全に“恋”に落ちている由美の様子に、桃子は、彼女には見えないように、優しげな微笑を浮かべていた。

 ぴんぴろりん♪

「!」
 風鈴のような電子音が、由美の握り締めるスマホから響いた。由美は、超高速でタップを繰り返して、メールの返信内容を確かめる。
「………」
 その頬の緩み具合を見て、優しく由美を見守っていたはずの桃子は、不意に、壁にパンチをしたくなってきた自分も見つけていた。
「八日市クン、OKだって?」
「え、ええ。“きちんと部屋を綺麗にして、お待ちしてます”って」
「ズッコンバッコン、確定ね」
「そんなことは、しません!」
 どーだか、と、桃子は、無表情に言う。
(まあ、がんばりなさいよ)
 しかし、その内心では、頬を真っ赤にしながらこれまで見たこともないぐらいに“乙女”な様子を見せている由美の“恋”を、真摯に応援し、励ましていた。


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