濃厚接触タイム-3
「にしても、」龍がミカに手渡されたグラスを持って言った。「ただの風邪なのに、大騒ぎし過ぎだよ、真雪。」
「だって、だって、その風邪こじらせて肺炎になったり、高熱で脳症になったりしたらどうしよう、って心配だったんだもん。」
「いや、なんないから・・・・。」
「真雪、何だか今日は随分ナーバスじゃないか。あんたらしくないね。」
「なんでかな・・・あたしにもよくわかんない。」真雪はグラスの牛乳を一口飲んだ。「今夜ずっといっしょにいてあげるね、龍。」
「それはありがたい。ありがたいけど、うつっちゃうよ。風邪。」
「いやっ!龍といっしょにいるっ!」
ミカが噴きだした。「あははは。真雪ったら、まるで幼児だね。でもほんとにうつっちゃうかもよ?龍の風邪、タチ悪そうだし。」
「なんだよ、それ。」龍は母親を睨み付けた。
「いいの。うつってもいいの。龍の風邪なら。」
「はいはい。」ミカが呆れて言った。「相変わらずでれでれだね、あんた。じゃあさ、とりあえず一旦帰って着替えとか準備しといで。」
ミカは立ち上がった。
「うん。そうする。」真雪も立ち上がった。「龍、ちゃんと静かに寝てるんだよ。」
「真雪が階段どたどた上ってくるまでは静かに寝ていられたんだけどね。」龍はウィンクをして、また小さな咳をした。
「はい、あーん。」真雪はおかゆをすくったスプーンを龍の口に持っていった。
「真雪ー、」龍は困ったような顔をした。「自分で食べられるから・・・・。」
真雪の手のスプーンが止まった。そして彼女はひどく悲しそうな顔をした。「いやなの?龍。あたしに食べさせてもらうの、いやなの?」
龍は慌てて言った。「い、いえ、た、食べます。食べさせてください。」
そうして龍は、真雪がすくっては自分の息で一生懸命冷ましたスプーンのおかゆを食べさせられ続けた。
「全部食べたね。おりこうさん。」真雪は龍の頭を撫でた。
「真雪ー、俺、子どもじゃないんだからさー。」
真雪は微笑み、空になった茶碗をトレイに戻しながら小さなため息をついて言った。「ごめんね、龍。あたしもちょっとやり過ぎだとは思う。思うけどやらせてよ。普段こんなことできないじゃない。」
「そりゃそうだ。」龍も微笑んだ。「確かにこんなこと、真雪にしてもらうの、初めてだよね。」
「一度だけあったよ。前に。覚えてない?」
「え?そうだった?」
「うん。龍が保育園の年長さんだった時に、やっぱり高い熱出して寝てたこと、あったじゃん。」
「そうだったっけ?覚えてないなー。」
「あの時もあたし、今みたいにおかゆ食べさせてあげたんだよ。覚えてないの?」真雪は面白くなさそうに言った。
「うーん・・・・。」
「熱にうなされてた龍くん、赤い顔して弱ってて、あの時はおかゆもほとんど食べなかったんだよ。」
「そうだったんだ。」
「その後あたしが身体、拭いてあげたんだけど、それも覚えてない?」
「・・・そうだったっけ?」龍は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「覚えてないんだー。つまんないの。」
龍はしゅんとして小さな声で言った。「ご、ごめん・・・。」
真雪は突然顔を上げ、龍を見つめて目を輝かせた。「龍、」
「え?な、なに?」
「今からあたしが龍の身体、拭いてあげるっ!」
「ええっ?!」龍は熱っぽい赤い顔をさらに赤くして叫んだ。「い、いいよ、じ、自分でやれるよ。」
「遠慮しないでっ!」
真雪は茶碗と湯飲みと薬袋が載ったトレイを持って立ち上がると、小走りでドアに向かった。
「準備してる間に、歯磨きしといてね。」
そして振り向き、龍に投げキスをして階下に早足で降りていった。